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再発の多いマラセチア皮膚炎。ダックスフンドなどの好発犬種は症状のコントロールを目指そう
執筆者:ナルセノゾミ先生
動物看護士、愛玩動物飼養管理士
・体をかゆがる
・皮膚が赤くなる
・フケが多くなった
愛犬にこんな症状がある場合は、マラセチア皮膚炎になっている可能性があります。
よくある皮膚病として知られるマラセチア皮膚炎ですが、治っても再発を繰り返すことも多く、治療が長引くこともしばしばです。
そこで今回は、繰り返すマラセチア皮膚炎の症状をコントロールすることに重点をおき、マラセチア皮膚炎になりやすい犬種や、原因ごとの対策についてまとめました。
マラセチアの性質を理解し、少しでもワンちゃんが快適に過ごせるように、できることから試してみてくださいね。
マラセチア皮膚炎は、常在菌が異常繁殖しておこる皮膚病
マラセチアは、もともと犬の皮膚に常在するカビの仲間です。
カビと言うと不潔で嫌な印象を持っている方も多いかもしれませんが、通常は悪さをすることはなく、ひっそりと生きているマラセチア菌。
このマラセチアが異常繁殖することで皮膚に炎症がおこることを、マラセチア皮膚炎と呼びます。
マラセチア皮膚炎の症状
マラセチア皮膚炎の症状としては、主に次のようなものがあります。
《マラセチア皮膚炎の症状》
・痒み
・痛み
・皮膚の赤み
・皮脂の分泌過多
・フケ
・独特のにおい
さらに、悪化したり慢性化すると、次のような症状が出ることも。
・脱毛
・皮膚の硬化
・皮膚のざらつき
・色素沈着
また、症状がでる部位で多いのが、
・口周り
・耳
・首
・お腹
・足の付け根
・足先
・肛門まわり
・尻尾
など、皮膚のやわらかい部分にでるケースが多い傾向があります。
マラセチア皮膚炎の治療
マラセチア皮膚炎の治療には、抗真菌薬や抗菌シャンプーが使われることが一般的です。
かゆみがひどい場合は、初期段階でかゆみ止めを出されることもあります。
抗菌シャンプーは週2~3回ほどの頻度で使用し、皮膚表面のマラセチアを洗い流し、繁殖を抑える効果があります。
マラセチアはジメジメした場所を好むので、シャンプーのあとはしっかりタオルドライし、ドライヤーで完全に乾かすことが重要です。
非常に再発率が高い皮膚病なので、皮膚の検査をして完治したとされるまでは、根気よく治療を続ける必要があります。
マラセチア皮膚炎の好発犬種…ダックスフンド、シーズーetc
マラセチア皮膚炎はどの犬種でも発症しうる、犬によくみられる皮膚病です。
しかし、マラセチア皮膚炎にかかりやすい傾向がある犬種もあります。
一例ではありますが、好発犬種は以下の通りです。
・ダックスフンド
・シーズー
・マルチーズ
・プードル
・ポメラニアン
・ビーグル
・コッカースパニエル
・ウエストハイランドホワイトテリア
生まれ持って皮膚が弱い体質だったり、免疫機能が低下している場合には、発症する確率も高くなります。
好発犬種でなければ心配ない?
ダックスフンド、シーズー、プードルなど、マラセチア皮膚炎になりやすい犬種として挙がることが多いですが、当然ながら個体差があります。
純血種はかかりやすい傾向のある病気もありますが、マラセチアが増殖するための環境がそろっている場合、どの犬種であってもマラセチア皮膚炎を発症する可能性があります。
ちなみに、人間に感染する真菌と言えば白癬菌、いわゆる水虫がありますが、カビの一種なだけあって感染するとなかなか治らない、再発をしやすいといった特徴がありますよね。
マラセチア皮膚炎も似たようなもので、一度感染すると、症状が治まったように見えてもまた条件がそろうと感染してしまうリスクがあるため、しっかりと治療を続ける必要があります。
好発犬種だけでなく、すべてのワンちゃんがなりうる可能性のある皮膚炎なので、やたらとかゆがる、皮膚の赤みなどの皮膚症状が出た場合は、すぐ動物病院に連れていきましょう。
マラセチア皮膚炎の原因と対処方法
再発防止や早く症状を改善させるためにも、マラセチアが増えることになった原因を探ることも大切です。
マラセチアが増えやすい原因と、対策についてご紹介します。
皮脂が多い体質
マラセチアは皮脂を養分にして、さらに脂を分泌します。
そのため、皮脂が多い体質のワンちゃんは、マラセチアにとって増殖しやすい環境であると言えるのです。
体質をすぐに変えることは難しいですが、食事の栄養バランスを見直すことで皮膚の状態を良くしていくことは可能です。
サケやマグロに含まれるEPA・DHAなどのオメガ3系脂肪酸、アマニ油や大豆油の植物油に含まれるALAといったオメガ6脂肪酸には、皮脂のバランスを調整するはたらきがあるとされています。
これらの栄養を補助的に与えることで、皮膚や被毛の状態が良くなることもあるので、ぜひ試してみてください。
湿気が高い環境
マラセチアはカビの仲間なので、暖かく湿った環境で活発になります。
その証拠に、暖かくなる季節や梅雨の時期に、マラセチア皮膚炎で来院するワンちゃんが増えるのです。
定期的に窓を開け、ワンちゃんが過ごす部屋の空気の入れ替えをしたり、布製品などはこまめに洗濯や天日干しにして乾燥させ、清潔な環境を保つようにしましょう。
除湿機がある場合は、湿気の多い季節だけでも使ってみてくださいね。
基礎疾患の存在
マラセチア皮膚炎になる原因の一つに、基礎疾患の存在があります。
何らかの他の病気によって、体の抵抗力が弱まり、皮膚のバリア機能が低下してマラセチアの増殖を許してしまいます。
基礎疾患がある場合は、マラセチアの治療と並行して全身症状の治療を進めないことには、何度もマラセチアを繰り返すことになってしまうのです。
アレルギー体質
アレルギー体質を持っている場合は、マラセチア皮膚炎を発症するケースもよくみられます。
基礎疾患同様、抵抗力の低下が原因となる場合もありますが、マラセチア菌そのものがアレルゲンとなり、皮膚炎がおこっている場合があります。
マラセチアは皮膚の常在菌なので、完全に除去することが出来ません。
しかし、常在菌がアレルゲンになってしまうと、マラセチアを排除しようとアレルギー症状が出てしまいますから、この場合は完治ではなく、症状をコントロールすることを目指す必要があります。
完治が難しいケースでは、マラセチアと上手に付き合う必要がある
先述した、アレルギー体質や皮膚のバリア機能が弱い体質のワンちゃんは、何度もマラセチア皮膚炎を繰り返すことで体に大きな負担がかかってしまいます。
飼い主さんも通院や治療にと、大変ですよね。
また、基礎疾患が完治が見込めない場合も、マラセチア皮膚炎が再発し続けることがあります。
そうした場合は、症状をうまくコントロールすることを考えていきましょう。
食事で体質改善
私たち人間も含め、すべての動物は食べたもので体が作られています。
ですので、食事を見直すことで、少しずつではありますが体質を改善させることも可能です。
総合栄養食として販売されているドッグフードには、ワンちゃんが生きていく上で必要な栄養素が含まれていますが、プラスαで栄養素を与えてあげましょう。
また、盲点ですがドッグフードに使われている油や市販のおやつの添加物などが、体に悪影響を与えていることもあるので、それらの見直しもしてみるといいかもしれません。
手作り食やサプリメントやトッピングなど、続けられる方法で試してみてくださいね。
腸内環境を整える
皮膚炎と腸は、一見関係ないように思えますが、抵抗力が落ちているときなどは腸内環境の見直しもとても大切です。
犬の体内にある免疫細胞の多くは、腸内にあるといわれています。
腸内環境が悪いと、うまく栄養を体に取り込めないだけでなく、ウンチの状態も悪くなってしまいます。
腸内環境を良くするためには、腸の善玉菌を増やすサプリメントが手軽で効果が期待できる場合もあります。
無糖のヨーグルトを少量(小型犬でティースプーン1杯ほど)を与えてもいいですね。
もちろん、ワンちゃんによって体質や合う合わないもありますから、様子を見ながら調整してあげましょう。
予防のために定期的な抗菌シャンプーを
再発予防のために、マラセチア皮膚炎の治療として処方される抗菌シャンプーを定期的に使う方法もあります。
日頃からマラセチアの増殖を抑えるようにケアしていれば、何もしないで過ごすときより、発症したときの度合いを軽くすることも出来るでしょう。
マラセチア皮膚炎はかゆみが伴うので、掻き続けたり噛んだりすることで出血や二次的に皮膚症状が出ることもあります。
そうした症状を少しでも抑えてあげるためにも、症状がないときも対策してあげたいですね。
症状の起伏を抑えることを目的に
何度もマラセチア皮膚炎を繰り返すと、「また…」と飼い主さんもやるせない気持ちになることと思います。
しかし、体質や基礎疾患などにより、どんなに飼い主さんがケアをしていても、再発が続くケースは珍しくありません。
完治させることに躍起になりすぎると、飼い主さんも疲れてしまいます。
そんなときは、症状を抑えることを目指しましょう。
ワンちゃんの食生活の見直しや予防対策を続けたことで、マラセチア皮膚炎が再発しても、以前より症状が軽い、頻度が減った、などのワンちゃんも多いです。
症状の起伏が抑えられるだけでも、ワンちゃんにとってのストレスも激減するはずです。
ダックスフンドのマラセチア皮膚炎まとめ
マラセチア皮膚炎は、常在菌のマラセチアが増えすぎることによる皮膚病で、よくある皮膚病のひとつ。
マラセチア皮膚炎になりやすいとされる、ダックスフンド、シーズー、プードルなどは、人気犬種なだけあって発症するワンちゃんの数も多いです。
再発が多いため、その原因をつきとめ、根本から改善していく必要があります。
体質や基礎疾患の有無で完治が難しいこともあるため、そんな時は再発しても激しい症状が出ないようにコントロールすることを目指していきましょう。
執筆者:ナルセノゾミ先生
動物看護士、愛玩動物飼養管理士
仙台総合ペット専門学校で、動物看護・アニマルセラピーについて学ぶ。
在学中は動物病院・ペットショップの他、動物園での実習も経験。
犬猫、小動物はもちろん、野生動物や昆虫まで、生粋の生き物オタク。
関わる動物たちを幸せにしたい、をモットーに活動しているWebライター。