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犬の皮膚糸状菌症について
執筆者:竹内Coco先生
動物看護師、トリマー
愛犬に円形の脱毛ができたりはしていませんか?丸い脱毛や、フケなどの症状が出ているのであれば、もしかしたら皮膚糸状菌症にかかっているかもしれません。
皮膚糸状菌とは、いわゆるカビ(真菌)の一種で、白癬とも呼ばれています。白癬は、人に起こるものでは水虫が挙げられます。
動物病院で、「原因はカビですね」と言われて驚く飼い主さんも多いものです。「自宅にカビは生えていないけど・・・」とおっしゃる方もいます。
それくらい初めて聞くと、カビと犬の皮膚病は結び付かないようですが、水虫のような真菌だとすれば、カビと皮膚病に関係があるのが分かりますよね。そしてなんとなくしつこいものだ、ということも想像できるかと思います。
皮膚糸状菌症とはこのような真菌が犬の皮膚に感染し、様々な皮膚トラブルを起こしてしまうものなのです。
皮膚糸状菌症の症状
症状としては、円形の脱毛(リングワーム)や、かさぶた、赤み、フケ、時には痒みを伴います。一般的には皮膚の表面で起こる皮膚病ですが、ごく稀に感染が皮下にまで進み、肉芽腫という腫瘍を形成することがあります。
ですから、ただの脱毛だと思い、放置するのは良くありません。カビというのは根強く、完治に時間のかかる非常にやっかいな病気なのです。
犬の皮膚糸状菌症の原因
そんな皮膚糸状菌症ですが、菌は意外と身近なところに潜んでいるんですよ。普段は私たちの身の回りにも存在しています。犬や猫といった動物から、人にも感染する人畜共通感染症です。
皮膚糸状菌には、たくさんの菌の種類がありますが、主な感染の経路は次の3つ。
感染している動物との接触による感染
犬の実に70%はミクロスポルム(犬小胞子菌)と呼ばれる糸状菌による感染だと言われています。元々は猫が持っていることの多い菌で、野良猫との接触などからも感染してしまいます。
土壌に生息している糸状菌からの感染
20%程度は土壌に生息している糸状菌からの感染です。お散歩に出かけて土に皮膚糸状菌がいた場合に感染してしまうことがあります。このような場合は、土と接触する足に症状が出ることが多いです。
人からの感染
極めて稀ですが、人への感染を好む糸状菌から犬に感染してしまうことも。例を挙げると足白癬、いわゆる足の水虫の菌がこれに当たります。室内犬が増え、飼い主さんと密接して生活していることが原因として挙げられるようです。
このように感染してしまう原因のほとんどが、皮膚糸状菌症にかかっている犬や猫との接触なのです。
感染リスクが高い犬とは?
しかし皮膚糸状菌は、それほど強力な感染力を持っているわけでもないので、通常、感染することは少ないものです。ではどういった場合に感染してしまうのでしょうか。
多頭飼い
感染動物との接触が一番の感染原因ですから、多頭飼いではリスクが高まります。ペットショップやブリーダーなど、狭い場所で多くの動物が飼われている環境は要注意。
皮膚糸状菌症が蔓延してしまうと根絶は難しく、自宅に迎え入れたときにはすでに感染してしまっている場合があります。
高齢の犬
高齢で免疫力が下がっている、病気にかかって弱っている犬だと、感染しやすくなってしまいます。
若齢の犬
子犬の場合はまだ抵抗力が弱いので、菌に対抗できないことがあります。
このように通常、健康で元気であれば防げる菌であっても、体がまだ出来上がっていなかったり、弱ったりしている犬だと感染してしまうのがこの病気です。
感染初期には症状が出ていないこともあります。通常1~4週間で症状が出始めるので、無症状の場合、気づかずに接触してしまった人や犬に感染してしまうこともあるのです。
皮膚糸状菌症になりやすい犬種
この皮膚病は犬種を問わずかかりますが、中でもヨークシャテリアは被毛で菌が育成され、感染原因となりやすいと言われています。慢性化しやすいため、好発犬種として一番に名前が挙げられます。
また比較的、長毛の犬種がなりやすいようです。カビは湿気があり、生暖かいところが大好きですよね。長毛のワンちゃんは毛に菌が付着しやすく、湿気を含みやすいので、カビにとって好都合なのかもしれません。
皮膚糸状菌症の治療方法
人の水虫が根強いように犬も一度感染してしまうと、完治に時間のかかる病気です。獣医さんも治療法は合っているのになかなか治らない、または再発する、と頭を抱えてしまうものです。
一度かかると治療は数カ月にも及ぶことも。早期治療が早期完治に繋がります。気がついたらなるべく早く治療してあげましょう。治療法には次のようなものが挙げられます。
抗真菌薬
まずは真菌によく効く薬が処方されます。
外用薬
患部が小さい範囲や、症状がそこまでひどくない場合に用いられるのが塗り薬。飲み薬は、効果は高いですが、幹部だけでなく全身に行き渡ってしまいます。
どんな薬にも、少なからず副作用というものが存在しますので、比較的軽度の場合には塗り薬を処方されることが多いです。
塗り薬は犬が気にして舐めてしまうことがあるので、使用する場合には、ごはんの前にあげる、塗った後5分程度は遊んで気を紛らわせる、などの工夫をしましょう。
内服(飲み薬)
患部が広範囲に渡る場合や、塗り薬で治まらない場合には内服が処方されます。ケトコナゾールやトラコナゾール、イトラコナゾールなどがよく使われるお薬です。飲み薬には副作用がつきものですので、必ず獣医師から処方してもらってくださいね。
薬用シャンプー
真菌に感染している犬はこまめにシャンプーしてあげることがとても大切!抗真菌作用のあるシャンプーを用いて皮膚を綺麗に保ってあげることで、ずいぶんと完治が早くなります。
クロルヘキシジンやミコナゾールを含んだ抗真菌作用を持っているシャンプーで洗います。症状によって使うシャンプーは変わってくるので、必ず薬浴には獣医さんが勧めるシャンプーを使用してくださいね。
殺菌・消毒
感染している人や動物が使っている物からも感染は起こります。普段使用していた毛布やタオル、ゲージなどは殺菌消毒してあげてください。人が水虫ならばバスマットなども殺菌、もしくは新しい物に交換しましょう。
せっかく犬自身が薬や薬浴で治療をしていても、どこかに菌が残ってしまっていてはまた感染してしまいます。真菌には塩素系(漂白剤)が有効で、安価で手に入れることができます。適切な濃度に希釈して10分以上浸すと効果的です。
舐めないようにする
先ほどお伝えしたように、カビは湿ったところが大好きです。しかし、皮膚糸状菌に感染してしまうと、犬は痒みなどの刺激が気になって舐めてしまいます。そうなると、せっかく治療していてもなかなか治らないもの。
愛犬が幹部をしつこく舐めているようであれば、エリザベスカラーをつけましょう。少し不自由でかわいそうと思ってしまいますが、舐めないことで早期完治に繋がります。
サプリメント
どうしても薬を塗ってもすぐに舐めてしまう、エリザベスカラーをつけると気が狂ったように暴れ回ってしまう、そんなこともよくあります。
また内服による治療は少なからず副作用もあり体の負担になるものです。そんなときにおすすめなのがサプリメント。サプリメントは薬と違い副作用もありません。また飲むものですので、塗り薬や、エリザベスカラーが大の苦手なワンちゃんでも取り入れることができます。
皮膚糸状菌症のときに気をつけたいこと
シャンプーのとき
シャンプーのときに気を付けたいのは、きちんと乾燥させるということ。薬浴としてシャンプーをしてあげることは大切ですが、指の間など乾きにくい場所もしっかりと乾かしてあげましょう。
病院で処方された薬用シャンプーを20分以上かけて浸透させると効果的です。
肉球のお手入れ
足裏は特に皮膚糸状菌症に感染しやすい場所。お散歩から帰ったら濡れていないかチェックして、しっかりと拭いてあげてください。
ほかの犬との接触を避ける
皮膚糸状菌の感染力は弱いものの、他の動物や人にも移ってしまう皮膚病です。多頭飼いの場合は蔓延してしまうとなかなか根絶は難しくなります。なるべく感染した犬は隔離し、感染の拡大を抑えましょう。
治療は獣医さんの許可が降りるまで続けること!
とても重要なポイントがこちら。一見、良くなって治ったように見えても、実はカビは根強く残っているものです。勝手に治ったと思って治療を辞めてしまうと、皮膚の下に残っていた菌がまた繁殖しだしてしまいます。
きちんと獣医さんから投薬終了の許可が降りるまで治療を続けましょう。せっかくあと少しで治るところだったのにぶり返してしまっては愛犬もかわいそうですよね。
皮膚糸状菌症にならないために、予防や日ごろのケアの5つのポイント
皮膚糸状菌症は一度かかってしまうと、とってもしつこくてやっかいな病気なんです。ですから、できればかからないように予防してあげるのが一番。
そこで日常のケアで予防できるポイントを5つご紹介します。ぜひあなたもこのポイントをしっかりと抑えて、愛犬から皮膚真菌症を遠ざけてあげてください!
濡れたところはしっかりと乾燥させる
まずはカビの大好きな湿気を取り除くことが大切。シャンプーやお散歩で濡れたあとは、乾きにくいところまでしっかり乾かしてあげないと、菌が増殖しやすくなってしまいます。
また通気性をよくするために、足先にバリカンをかけるのも効果的です!「足先バリカン」や「チキン足」と呼ばれます。見た目の好みは人それぞれですが、お散歩から帰ってもしっかり拭きやすいし、通気性もよく真菌対策にはおすすめですよ。
ストレスをかけない
皮膚糸状菌とストレスって関係ないように感じますか?でも実は関係あるんです!犬はストレスを感じると、免疫力が下がってしまいます。それによって皮膚糸状菌症になってしまうこともあります。
日ごろからよく遊んであげたり、嫌がってストレスになっているようなものはないか観察してあげたりしましょう。愛犬になるべくストレスをかけないように過ごさせてあげることも、大切な予防の一つです。
清潔に保つ
寝床はもちろん、自宅を清潔に保つのも大切です。カビ菌は、タオルや毛布にも繁殖しやすいので、それらに菌がついてしまっていてはいくら犬に気を使っていても感染してしまいます。
殺菌・消毒をこまめに行ってあげることで皮膚糸状菌から愛犬を守ることができます。
免疫力をつける
感染力はそれほど強くない皮膚糸状菌。感染してしまうのは、免疫力や抵抗力の低い犬です。ですから菌に打ち勝つ免疫力をつけてあげることが大切!
食事
免疫力を上げるには良質なたんぱく質が必要です。またEPAやDHAなどのオメガ3系不飽和脂肪酸は皮膚トラブルを抑えるのに役立ちます。これらをしっかり含んだ食事を与えてあげてください。
日光を浴びる
日の光を浴びることも大切です。日光には体内時計を正しくさせる力、ストレスを軽減する力、皮膚病の予防効果などがあります。1日中閉め切ったお部屋の中で過ごさせずに、適度な日光浴をさせてあげましょう。
β-グルカンを含むサプリメント
サプリメントは、薬とは違いますので副作用がなく長期的飲んでも安全なもの。感染してしまったときはもちろんのこと、していないときから飲ませてあげることで予防効果が期待できるのでおすすめですよ!
皮膚糸状菌症の予防にはβ-グルカンを含んだサプリメントがおすすめ。β-グルカンは皮膚糸状菌も持っているもので、それらの菌が持っているのは皮膚に炎症を起こす悪い物。
ですがサプリメントに含まれるβ-グルカンは無害なものです。
β-グルカンを体内に摂取することで免疫細胞は、悪いものが入ってきたと勘違いをし、活性化します。それにより免疫力が上がるので、皮膚糸状菌はもちろん、他の病気にもかかりにくくなります。
犬の皮膚糸状菌症のまとめ
皮膚糸状菌症は、カビ(真菌)が皮膚に感染することにより発症する皮膚病。人にも移る人畜共通感染症です。免疫力や抵抗力の低い、高齢や若齢の犬がかかってしまうことが多く、円形の脱毛やフケ、赤み、ときには痒みを伴うのが特徴です。
主に抗真菌剤を使った治療が行われますが、完治には時間がかかってしまいます。ですが、健康的な生活を心掛け免疫力を上げる、皮膚や生活環境を清潔に保ってあげる、サプリメントを与えるなどといった日常の中で予防できるポイントはとても多いものです。
普段から気を付けてあげて、まずは皮膚糸状菌症にかからないようにしてあげることがとても大切ではないでしょうか。
参考文献:
DERMATOLOGY(小動物皮膚科専門誌 2011vol.2)
ビジュアルで学ぶ動物看護学
執筆者:竹内CoCo先生
経歴:大阪コミュニケーションアート専門学校ペットビジネス科ペットトリマーコース(現在の大阪ECO動物海洋専門学校)卒業。
ペットショップ勤務を経て、現役動物看護士。動物病院で勤務している立場から、「正しい知識を持ってペットと幸せに暮らしてもらいたい」という気持ちで正確な情報をお届けします。