犬のマラセチア外耳炎を自宅でケアする時の3つのポイント【獣医師執筆】

犬のマラセチア外耳炎を自宅でケアする時の3つのポイント【獣医師執筆】

増田国充先生(獣医師)

犬のマラセチア外耳炎について

動物病院に来院される理由の中で、ワクチン接種やフィラリア予防などを含めた病気やけがでないものを除いた場合、耳に関するトラブルは常に上位に入ります。実際、ペットの保険会社であるアニコムホールディングス株式会社発行の「家庭どうぶつ白書2018」によりますと、皮膚疾患、消化器疾患に次いで耳の疾患が第3位となっています。

その耳のトラブルの中でも、圧倒的に外耳炎が多くを占めます。後述しますが、耳の穴から鼓膜までの間の部分を外耳道と呼び、そこで生じる炎症が外耳炎です。ヒトでは中耳炎が多いのと対照的です。

外耳道では、その炎症に関連する微生物の増殖がみられることが多くあります。細菌が原因のこともありますし、カビの仲間である真菌であることもあります。マラセチアといわれる酵母菌に似た真菌が異常増殖してかゆみや腫れ、大量の耳垢を生じることのあるものとして「マラセチア外耳炎」があります。

マラセチアは、「酵母(こうぼ)様(よう)真(しん)菌(きん)」と呼ばれるがあるカビの仲間です。とはいえ、パンや浴室に増殖するそれとは少々異なります。料理で発酵に使用する酵母菌とに近いものとお考え下さい。

この写真は、マラセチアを染色して見やすくした写真です。

マラセチアは、特殊な環境にしか生息しないということではありません。私たちが生活しているところにはほぼ例外なく存在しており、空気中を浮遊しているのです。ただ、これが後程説明する耳の中の特殊な環境で増殖するとマラセチア外耳炎を発症してしまいます。

このマラセチア外耳炎の主な症状は、
・耳をかゆがる
・茶色~黒色の粘り気のある耳垢が発生する
・しかもその耳垢が独特の酸っぱいにおいを生じる

などです。耳の穴の入り口にその特徴のある耳垢が付着している場合があります。

そのほか目につきにくい耳の奥で大量の耳垢が存在することがあります。マラセチアという真菌だけが外耳炎の炎症となるばかりでなく、その他細菌も同時に感染することがあります。それによって治療で使うお薬が変わることがありますので、耳をかゆがっている様子が見られたら動物病院に相談しましょう。

マラセチア外耳炎と診断する場合、耳の様子の確認と耳垢のチェックを行います。耳垢を染色して顕微鏡で観察した際、マラセチアが多数検出されればマラセチア外耳炎であるといえます。


【写真 マラセチア外耳炎の犬の耳介】


【写真 マラセチア外耳炎の犬の耳垢】

犬のマラセチア外耳炎の原因

そもそも、犬は人間に比べると外耳炎になりやすい動物です。それはなぜでしょうか?それは、耳の穴の中の構造が人間よりも複雑だからです。図で説明しましょう。人間の耳道、つまり耳の穴は水平方向に一直線に通じています。

一方犬や猫は耳の穴から一旦下方向に進んでいきます。そして進路を直角に換えて横方向に奥へと進みます。前者を「垂直耳道」、後者を「水平耳道」と呼びます。

このように、外耳道が折れ曲がっていることによって通気が悪くなりやすいこと、それから犬の場合は外耳道内にも毛が密集して生える場合があります。そうなるとさらに通気が悪く蒸れやすくなってしまいます。高温多湿の環境でマラセチアが増殖しやすいため、犬の外耳道はこれらの条件を満たしやすくなるのです。

さらに、犬には立ち耳、たれ耳とさまざまです。たれ耳の場合は、耳道の入り口にふたをするような構造となってしまうため、立ち耳の犬に比べると外耳炎になる傾向が高くなります。

構造的な問題以外の要因として、皮脂の分泌が多い犬は外耳道でも同様に分泌が旺盛となっておることが多く、この皮脂がマラセチアが増殖するために必要なエサとなります。従いまして、マラセチア皮膚炎を生じやすい犬の場合は同時にマラセチア外耳炎にもなりやすいということも言えるわけです。


【図 犬の耳道の模式図(右耳)】

マラセチア外耳炎になりやすい犬種

先ほど述べました通り、マラセチア外耳炎になりやすいのは耳の構造によるものと体質によるものとに分けることが出来ます。

構造的な問題とは、たれ耳であることのほか、耳道にポリープなどが生じているなどという点です。体質に由来するものは皮脂の分泌が多い、耳道に毛が密集しやすいといったことが挙げられます。これらの条件をより多く満たす場合にマラセチア外耳炎になりやすくなると考えられます。

具体的な犬種を挙げますと
・ゴールデン・レトリバー
・ラブラドール・レトリバー
・トイ・プードル
・ミニチュア・ダックスフンド
・柴犬

などです。

柴犬は一見すると立ち耳で外耳炎とはあまり縁がなさそうに感じますが、実は皮膚や耳は非常にデリケートな子が多く、実際筆者自身もマラセチア外耳炎に罹った柴犬を診る機会が少なくありません。

マラセチア外耳炎の治療方法

マラセチア外耳炎と診断された場合、基本的に他の外耳炎と同じく外耳道の洗浄とお薬を使った治療を行います。マラセチアは真菌、つまりカビの仲間ですので抗真菌薬を使用します。

点耳薬を使用することが最も多く、この点耳薬に抗真菌作用のある成分が含まれているものを選択します。ただ、この薬を効率よく作用させるためには、点耳薬を使用する前にできるだけ耳の汚れを取り除いておくことが重要となります。

耳掃除は専用の洗浄液を使って洗浄液を直接耳の中に注入する方法のほか、洗浄液をコットンにとってやさしくふき取る、といった方法がとられます。

ただし、炎症の程度によってはご家庭で洗浄しないように指示がある場合があります。従いまして、耳の洗浄方法や点耳薬の使い方はかかりつけの獣医師の指示による方法で行いましょう。外耳炎が非常に重度な場合や、ワンちゃんの性格上安全に耳の処置が行えない場合は麻酔や鎮静をかける場合があります。

マラセチアの外耳炎のときに気をつけたいこと

マラセチアに限らず、外耳炎になってしまった場合はその状態に合わせた適切な治療やケアを行わなければなりません。

大原則は、耳の環境を清潔にしておくことです。耳垢のたまりやすい条件を取り除いて通気をよくすることに注意しておきたいところです。

耳道に生えている毛が多いようであれば、毛抜きをする必要があります。また、先ほど説明しました通り点耳薬の使用が指示されている場合はご家庭で点耳を行わなくてはなりません。

液状のお薬を耳の穴の中に1~2滴入れます。そして、薬液が耳道になじむように耳の入り口から顎のエラに当たる部分までをよくマッサージしてみましょう。点耳薬を嫌がるケースも想定されます。その場合は関心をほかのところに向けてみる、マズルをするなどの方法で対応してもよいかもしれません。そして、無事にお利口に点耳が出来たらよく褒めてあげてくださいね。

仮に点耳薬が指示量よりも多めに入ってしまった場合、薬液が耳道内に溜まりかえって外耳道の環境を悪化してしまうのでは…と心配になるかもしれません。結論から言えば、首をブルブル振ることによって余分な薬液は外に出されます。ただ、普段より余分にお薬を使ってしまうことになるのでやや不経済となりますのでご注意ください。

外耳炎が生じている際に気を付けたいもう一つの点として、シャンプーがあります。シャンプーを行う際に、水(お湯)が耳から入ってしまうことがあります。通常であればこちらも首を振ることによって余分な水分が外に出されます。

ただ、外耳炎の程度によって外耳道の粘膜が腫れた結果、耳の穴が狭くなってしまっている場合があります。そうなると液体の排出が難しくなる場合があります。できるだけ、耳に水が入らないように心がけましょう。

水が入ってしまったら、ワンちゃんに首ブルブルをさせるよう促すか、あるいはコットンで水分をふき取りましょう。こすったりすると外耳道を傷つけてしまうことがありますので注意が必要です。

マラセチア外耳炎専用のシャンプーというものはありませんが、マラセチア皮膚炎を合併しているときは、真菌に対して効果のあるシャンプーを選択することがあります。

食餌に関しては、耳の中も皮膚の一部である通り、皮膚によい栄養価の高いものが望ましいでしょう。食物アレルギーのあるこの場合は、原材料にアレルギー源が含まれていないものを使用します。これらについて、まずはかかりつけの獣医師の指示を優先してくださいね。

こんなことでマラセチア外耳炎がよくなったワンちゃん

今回はマラセチア外耳炎のお話ですが、実は広い意味で言いますと耳も皮膚の一部であると考えられます。そのため、皮膚に対して適切なケアを行うことで外耳炎を生じるリスクがいくらか軽減できることがあります。

一方でマラセチア外耳炎を生じやすい犬は、同じマラセチアが影響して発生するマラセチア皮膚炎も生じやすい場合があります。過剰な皮脂はマラセチアにとって格好の餌となります。全身の皮脂の分泌のバランスが改善されれば、耳と皮膚の両方が良好となることもあります。

皮膚や耳は非常に常に外部の様々な雑菌にさらされるだけでなく、からだの免疫力に左右されやすい部分でもあります。そのため一見するとあまり関連のなさそうな全身の免疫力の強化が、転じて耳にも好影響を与えるということにつながるということです。

マラセチア外耳炎にならないために、予防や日ごろのケアの3つのポイント

マラセチア外耳炎にならないようにするためには、皮膚や耳を清潔に保つことと、体全体の免疫力体力の維持が重要であると紹介いたしました。では、具体的にご家庭で日頃できるケアについて3つポイント挙げてみようと思います。

・正しい耳のケアを心がけましょう
・皮膚にも気を遣いましょう
・食事にも気を使いましょう

耳のケアですが、耳の通気を良くし外耳道が蒸れにくい条件を作っておくことです。お家でできる耳掃除も、綿棒でこすったりすることは避け優しくいたわりましょう。

皮膚のケアが転じて耳にも良い影響を与えます。個々に適したシャンプーを選択し、耳だけでなく皮膚や被毛も健康に保ちましょう。

さらに、これら皮膚や被毛の健康を保つには食事による影響も無視できません。つまり皮膚によい食事を摂取していくことも耳のトラブル予防につながりますし、皮膚が丈夫であることは免疫力向上にも関連します。つまりいいことづくめです。食事で補えないものはサプリメントを使用するのも良い方法かもしれません。

結局のところ、耳のトラブル予防は全身の養生と直結するということでもあります。

〇参考文献
・家庭どうぶつ白書 アニコムホールディングス株式会社
https://www.anicom-page.com/hakusho/
・犬の外耳炎とアレルギー性疾患 松鵜彩 ペット栄養学会誌 14(1) : 23-26, 2011

増田国充先生

経歴
2001年北里大学獣医学部獣医学科卒業、獣医師免許取得
2001~2007 名古屋市、および静岡県内の動物病院で勤務
2007年ますだ動物クリニック開院

所属学術団体
比較統合医療学会、日本獣医がん学会、日本獣医循環器学会、日本獣医再生医療学会、(公社)静岡県獣医師会、災害動物医療研究会認定VMAT、日本メディカルアロマテラピー協会認定アニマルアロマテラピスト、日本ペットマッサージ協会理事、ペット薬膳国際協会理事、日本伝統獣医学会主催第4回小動物臨床鍼灸学コース修了、専門学校ルネサンス・ペット・アカデミー非常勤講師、JTCVM国際中獣医学院日本校認定講師兼事務局長、JPCM日本ペット中医学研究会認定中医学アドバイザー、AHIOアニマル国際ハーブボール協会顧問、中国伝統獣医学国際培訓研究センター客員研究員