目次
犬の脱毛症の原因となる疾患
執筆者:大柴淑子(おおしばしゅくこ)先生
元動物看護師、ペットアドバイザー
脱毛症のある代表的な病気を一つ一つ解説していきます。
原因は様々で、原因ごとにグループに分けられていますが、ここでは代表的なものを挙げていきます。
クッシング症候群
クッシング症候群の症状
代表的な症状は、急な多飲、多尿、多食です。小食だった犬が急にたくさん食べ出します。しかし背骨が出て太る様子は見られませんが、腹部だけが出てくるのが目立ちます。
全体の筋肉が落ち、同時に左右対称の脱毛が起こります。
犬がたくさん食べるため最初は肥満を疑うことが多く、ダイエットを始めてしまうこともあるため、早期発見が難しい疾患です。
クッシング症候群の原因・異常部位
副腎皮質で起こる、ホルモンの異常や腫瘍が原因となる、内分泌疾患の病気です。
たくさんの症状のひとつにかゆみのない「全身の脱毛症」があります。内分泌性脱毛症のひとつです。
またアトピーの治療で長い間ステロイドの投薬治療をしている期間に、突然薬をやめてしまうと副作用としてクッシング症候群を発症することもあります。
クッシング症候群の好発犬種
ダックスフンド
ヨークシャーテリア
ポメラニアン
トイプードル
好発犬種の去勢・避妊をしていない8歳以上の個体に特に出やすくなります。
クッシング症候群の治療法
いくつかの血液検査やホルモン検査などを経て、抗腫瘍剤の投与を一生涯おこないます。同時に処方食による食餌療法もおこないます。
腫瘍がある場合は外科的な治療もおこなうことがありますので、原因によって見極められます。
甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症の症状
初期の段階では、特徴的な症状が出ません。元気や落ち着きがなくなり、毛艶がなくなってくるため、徐々に見た目に変化が起きます。
また寒さや肥満気味で動きが鈍くなりますので、その様子に「老化現象」と判断されることもあり、気付くまで時間がかかってしまうのが現状です。
被毛は左右対称性の脱毛を起こします。この脱毛は治りにくく、皮膚が色素沈着して黒ずんだり、皮膚や被毛の乾燥でフケが出たりと、老化現象のような症状が見られます。
甲状腺機能低下症の原因・異常部位
特発性甲状腺萎縮や甲状腺炎によって起こる、内分泌性疾患のひとつです。クッシング症候群ほど起こりやすい疾患ではないものの、重篤になると意識障害を起こします。
また関連する他の疾患によって誘発されることもある病気です。甲状腺に関わる疾患の治療を行う時は、二次的に発症していないか注意しなければなりません。
甲状腺機能低下症の好発犬種
ドーベルマン
ボクサー
セッター
などの大型犬に多くみられ15歳以上の個体に発症しやすくなります。
8歳以上の中型、小型犬もなりやすい個体です。
甲状腺機能低下症の治療法
甲状腺ホルモン剤の投薬治療を一生涯に渡っておこないます。
予防法がないため、早期発見、早期治療をおこなうことで、犬の苦しい時間を減らすことができます。
被毛色脱毛症
被毛色脱毛症の症状
淡い色の被毛だけが脱毛する「単色被毛脱毛症」と黒色の被毛が脱毛する「黒色被毛脱毛症」があります。
生後4か月程度で発症するため、小さい頃からすでに毛の薄い様子が見られます。抜けていない被毛も弱々しく、健康的でない様子が分かります。
特に体幹部に脱毛が多く、同じ月齢の犬同士を比べると見た目の点でかなり劣ってきます。
しかしかゆみなどはなく、犬本人からすれば病気のストレスはあまりありません。脱毛のみで命に関わる問題も起こりませんが、皮膚がむき出しになったことで傷つかないようにケアしながら飼育する必要があります。
被毛色脱毛症の原因・異常部位
遺伝性の脱毛症であることが分かっています。
成長期は被毛の色が変化するものですが、この色を左右するメラニン色素が毛に送り込まれるしくみに異常が出て起こるのが、この脱毛症です。
被毛色脱毛症の好発犬種
淡色被毛脱毛症は、シルバー、フォーン、ブルー、グレー系の被毛を持つ犬種に。
黒色被毛脱毛症は、色が数種類混じっていても黒色の部分の持つ犬種に。
ヨークシャーテリア
ミニチュアピンシャー
パピヨン
チワワ
トイプードル
ダックスフンド
ビーグル
ボストンテリア
イタリアングレーハウンド
シェトランドシープドッグ
ニューファンドランド
バーニーズマウンテンドッグ
などがなりやすいとされています。
被毛色脱毛症の治療法
遺伝性であるため予防法はありません。治療としては後天的な緩和処置のみとなります。
たとえば被毛がないことで皮膚に負担をかけるため、バリア機能を高めるためのシャンプーの使用や内服薬の投与をおこないます。
日常生活でも皮膚が擦れやすく炎症も起きやすくなりますので、保護のための洋服を着せるなど、毎日の中で気を遣わなくてはなりません。
外部寄生虫症
アカラス症、ツメダニ症、ノミアレルギー、疥癬症など、外部寄生虫が由来するものを指します。
外部寄生虫症の症状
四肢だけに起こるタイプ、全身に発症するタイプ、局所的に起こるタイプと様々です。皮膚が赤く腫れ脱毛する他、疥癬などはかゆみも強く出ます。
それに伴って多量のフケも出てきます。
かゆみのために掻きむしると傷口から細菌感染を起こしますので、早めの処置が必要です。
若齢での発症は免疫力と共に自然治癒するものもありますが、年齢が進むにつれて治りにくくなり、一生涯の治療となることも多くあります。
外部寄生虫症の原因・異常部位
外部寄生虫症は、寄生虫に感染することで起こる後天性の病気です。出産時の感染や環境からの感染が主な感染ルートです。
感染があっても健康であれば自己免疫で発症しなかったり、自己治癒していくこともありますが、被毛や皮膚上などで増殖すると重篤化します。
外部寄生虫症の好発犬種
特になし
外部寄生虫症の治療法
薬用シャンプーで洗浄をおこない、寄生虫の駆虫薬を投与します。かきむしりなどで二次感染を起こしている場合は、抗生物質の投与も必要になります。
出産時に親子感染を起こして子犬が発症するものもありますので、対策として環境作りから見直さなければなりません。
また複数の動物が飼育されている場合、寄生虫の媒介となる個体との接触を避ける必要もあります。
人間が媒介する場合もありますので注意が必要です。
皮膚糸状菌症
皮膚糸状菌症の症状
皮膚が薄く敏感な顔や耳、四肢などにまとまったの円形の脱毛が起こります。脱毛部分はかさぶたがあり、フケが出てカサカサしています。同時に赤く大きく腫れているように見えます。
免疫の低い子犬や、闘病中で一時的に免疫力の落ちた成犬に発症しやすい傾向があります。
皮膚糸状菌症の原因・異常部位
カビの仲間である真菌が感染することで起こります。最初は一部だけの感染であっても、かゆがって掻くことで爪の根元に感染が起こり、掻いた他の部位にも広がります。
皮膚糸状菌症の好発犬種
特になし
皮膚糸状菌症の治療法
飲み薬の投与の他、真菌症用の塗り薬で治療をおこないます。
アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎の症状
アレルギー反応の一つとして起こる脱毛をともなう皮膚疾患です。激しいかゆみが大きな特徴で、目や口の周り、耳、足先、腹部などに特に異常が出てきます。
掻きむしるため脱毛も見られ、それに伴って皮膚が腫れ上がり、傷ついて二次感染を起こします。
アトピー性皮膚炎の症状の原因・異常部位
アレルゲンとの接触や吸引で起こります。人と同じように、アレルゲンを排除しなければ症状が出続け、どんどんひどくなっていきます。
ハウスダストやノミ、花粉、カビなど、生活の中の何がアレルゲンとなっているのか、検査をして突き止めなければなりません。
アトピー性皮膚炎の好発犬種
特になし
アトピー性皮膚炎の治療法
アレルゲンを特定したのち、生活の中から除去し治療を始めます。かゆみや皮膚の炎症を抑えるための薬物療法が治療のメインとなり、加えて薬用シャンプーなどを使用します。
炎症を抑える他にも、皮膚のバリア機能を高めるための治療もおこなわれます。
脂漏症
脂漏症の症状
脂漏症は、皮膚表面の細胞が生まれ変わらなくなり、角化して起こります。皮膚がべたっと脂っぽくなり、脱毛が起きて体臭も強くなります。
またその逆もあり、カサカサと乾燥してフケが出るものもあります。
脂漏症の原因・異常部位
脂漏症はアレルギー、真菌や寄生虫の感染などで二次的に起こりやすい皮膚疾患です。
脂漏症の好発犬種
主となっている疾患により異なります。
脂漏症の治療法
主となっている疾患の治療をしっかりおこない、原因を特定したのち症状を抑えるための治療をおこないます。
薬用シャンプーや皮膚の保護クリームを塗布するなど、皮膚のバリア機能を高める治療もおこないます。
膿皮症
膿皮症の症状
しっしんや赤い腫れ、かゆみ、脱毛が起こり、膿疱ができることもあります。
細菌の種類によって症状が異なります。
膿皮症の原因・異常部位
皮膚の表面にブドウ球菌などの細菌が感染して起こります。ブドウ球菌は常在菌ではありますが、免疫力の低下や栄養不足、老化によっても起こります。
他にも、アレルギーやアカラス症などの二次症状としても起こりますので、主となる疾患の治療と同時に治療されます。
膿皮症の好発犬種
なし
膿皮症の治療法
感染した細菌を殺すための抗生物質を投与します。その他薬用シャンプーによる洗浄もおこないますが、シャンプーのしすぎで起こることもあるため、処方以外のシャンプーはむやみに使わないようにします。
予防としては、日頃から正しい食餌を与え健康管理することが一番です。
扁平上皮がん
扁平上皮がんの症状
皮膚にカリフラワー状の赤いしこりができます。しこりを作らない場合もありますが、脱毛や皮膚のただれ、びらん、潰瘍などは共通します。口腔内にも同じように出ることがあり、だんだんと食欲が落ちていきます。
皮膚のがんは増殖が速いため、重篤になると粘膜やリンパ節へ転移することもあります。
扁平上皮がんの原因・異常部位
肥満細胞腫や悪性リンパ腫などがこの症状です。確固たる原因は分かっていません。
扁平上皮がんの好発犬種
なし
扁平上皮がんの治療法
外科手術で患部を大きく切除します。
アロペシアX
「ノルディック犬種毛包形成不全」や「ポメラニアン脱毛」など、別名がたくさんある
アロペシアXの症状
全身症状ではなく、頭部と四肢の毛が残り、体幹部の毛だけが薄くなり抜けてしまうのが特徴です。
かゆみはありませんので、かきむしっての脱毛や皮膚の炎症はありません。
アロペシアXの原因・異常部位
原因不明のためXと名付けられている疾患です。毛包の異常によって起こることが突き止められていますが、それ以上の原因は分かっていません。
被毛の色は関係なく発症します。
アロペシアXの好発犬種
ポメラニアン、トイプードルに多くみられます。そのため別名「ポメラニアン脱毛」とも呼ばれています。
胴の側面を中心とした脱毛症の場合は、エアデールテリア、ミニチュアシュナウザー・、フレンチブルドッグボクサーなどに多く見られます。
オスで若齢の1歳から3歳に多く発症していますが、老齢でも発症例はあります。
アロペシアXの治療法
原因不明であるため100%の治療法はないと言われています。気候変動によるものと言われ、それ以上は分かっていません。
ホルモン異常、皮膚検査、寄生虫、真菌などのあらゆる原因を考え、検査の結果どの可能性もなければ「アロペシアX」と診断されます。
執筆者:大柴淑子(おおしばしゅくこ)
webライターで元動物看護士・ペットアドバイザー。専門記事は犬猫から魚類・昆虫まで!楽しいペットライフのための、分かりやすくためになる記事を書いていきます。