治りにくい犬の脂漏症の原因・症状とスキンケアのポイント【小動物看護士執筆】

治りにくい犬の脂漏症の原因・症状とスキンケアのポイント

 

執筆者:nicosuke-pko先生

小動物看護士

犬の脂漏症

脂漏症と聞くと、その表記から皮脂が過剰に分泌されてベタベタする皮膚の病気だと思われる方が多いようです。しかし脂漏症は、必ずしも皮脂の分泌が過剰になるとは限らず、皮脂のバランスの異常に伴うさまざまな皮膚の症状を総称したものが脂漏症なのです。

したがって、表記から連想される通り、皮脂の分泌が過剰になり、皮膚がベタベタとした状態になる症状もあれば、皮脂を構成する成分のバランスが崩れて、皮膚がベタベタすることなく、乾いたフケが過剰に発生する症状もあります。前者を油性脂漏症、後者を乾性脂漏症と呼びます。

油性脂漏症にしろ、乾性脂漏症にしろ、皮脂の量やバランスが崩れると表皮のターンオーバーに異常が生じるため、フケが過剰に出ます。したがって、ベタベタとしたフケが出るのか、カサカサとしたフケが出るのかといった違いがあると考えれば良いでしょう。

表皮のターンオーバーとは、角質細胞が表皮を形成してから死滅して角質層を形成し、最終的にフケとしてはがれ落ちるまでの期間のことです。犬の場合、正常なターンオーバーは約3週間です。しかし、脂漏症になるとターンオーバーが約1週間に短縮されてしまうため、フケが過剰に生じることになるのです。

脂漏症とマラセチア皮膚炎との関係について

皮膚の表面には、常在微生物が多数生息しており、その動物の免疫機能の発達や維持、そして健康な皮膚を保つための、重要な役割を果たしています。しかし、何らかの事情により特定の常在微生物が過剰に増殖し、常在微生物叢のバランスが崩れると、やっかいな皮膚トラブルが生じてしまいます。トラブルを生じやすい代表格の常在微生物に、マラセチアという酵母様真菌があります。マラセチアは皮脂を栄養分としているため、脂漏症により皮脂が過剰な状態になると、増殖する傾向があります。したがって、脂漏症が原因となり、マラセチア皮膚炎を併発するケースが多いのです。

本来、皮脂そのものに殺菌作用があるため、皮脂が多くなるとマラセチアが過剰に増殖するというのは矛盾しているように感じる方もいらっしゃるかもしれません。常に新しい皮脂が産生され、古い皮脂が取り除かれている状態であれば、皮脂の殺菌作用は正常に働くのですが、脂漏症の場合は古い皮脂が大量に表皮に残ってしまうため、殺菌作用を失った古くて汚れた皮脂が、マラセチアの餌になってしまうのです。

マラセチアの増殖によりマラセチア皮膚炎を併発してしまうと、生活の質を低下させるレベルのかゆみが発生します。しかも、マラセチアに対してアレルギー反応を起こしてしまった場合は、かゆみのレベルが増し、重度のかゆみとなってしまいます。かゆみが増し、犬が掻き続けることで慢性化すると、皮膚の症状はどんどん悪化していってしまいます。

そのため、脂漏症の場合はマラセチア増殖の有無についても検査で確認をし、増殖していた場合はそれも併せて対処していくことが重要になります。

犬の脂漏症の症状

脂漏症には、皮膚の症状と皮膚以外の症状が現れます。それぞれについて、みていきましょう。

  1. 皮膚症状

(1)かゆみ

前述の通り、脂漏症が原因でマラセチアの増殖が伴った場合は、生活の質を落とすレベルのかゆみが発生します。かゆみは、犬の生活の質を下げるだけではなく、かゆい部分を掻きむしってしまうことで、さらに皮膚症状を悪化させる要因になりますので、かゆみに対する対処は非常に重要なポイントとなります。

(2)発疹

<油性脂漏症の場合>

皮膚や被毛がベタベタした状態になります。フケは、白または黄色で大きく、一つのフケが複数本の被毛を束ねたような形態で付着します。そして、フケ自体もベタベタした状態です。

<乾性脂漏症の場合>

皮膚や被毛のベタつきはなく、乾いたフケが発生します。フケは乾いているため、大きなものから小さなものまで、さまざまな状態で被毛に付着します。

<共通事項>

いずれの脂漏症も、マラセチアの増殖が伴う場合は皮膚に赤みが生じます。そして、かゆみが慢性化して掻き続けた場合、皮膚の表面がゴワゴワとしたり、脱毛したり、皮膚の色が黒くなったりという症状に発展していきます。

<皮膚症状の分布>

皮膚症状は、基本的には全身に左右対称の状態で分布します。特に、顔のシワ、首の内側、脇、股、指の間、尾の付け根などの皮膚と皮膚が重なる、マラセチアが増殖しやすい部分で強い症状が出る傾向にあります。また、背中には脂腺が多数あるため、ベタつきが出やすい傾向にあります。

  1. 皮膚以外の症状

(1)耳

脂漏症の犬は、高率で外耳炎を発症しています。両耳が外耳炎になり、過剰な耳垢が生じるのが特徴です。特に油性脂漏症の場合は、ベタベタとしたワックス状の耳垢が大量に発生します。

(2)一般状態

代謝異常が原因で脂漏症を発症した場合は、一般的な状態にも変化がみられます。特に多いのは甲状腺機能低下症で、その場合は活動性低下、食欲低下、体重増加、体温低下、脈拍低下といった症状がみられます。

犬の脂漏症の原因

脂漏症には、いくつかの原因があります。下記に代表的な原因をあげますが、これらにマラセチアの増殖や皮膚炎の併発などの要因が加わり、脂漏症をより複雑な病態にしていきます。

<遺伝的要因>

特定の犬種の場合に、若齢から脂漏症を発症することが分かっています。つまり、脂漏症は遺伝的な要因で発症するということです。脂漏症の好発犬種については、次節で説明します。初発が3〜6ヶ月齢と若齢である場合は、遺伝的要因によるものと考えてよいでしょう。この場合、根治はとても困難です。生涯にわたって脂漏症に対するスキンケアをしていく必要があると考えましょう。

<代謝の要因>

甲状腺ホルモンのような、代謝を管理するホルモンのバランスが崩れると、脂漏症になるリスクが高まります。中高齢になってから発症した場合は、代謝異常が原因の脂漏症だと考えてよいでしょう。この場合は、原因を是正することが可能であれば、根治も可能です。動物病院とよく連携し、治療と適切なスキンケアにより、根治を目指しましょう。

<環境要因>

高温多湿な環境が原因で、脂腺からの分泌が亢進されます。日本の夏は高温多湿になりますので、5〜9月になると脂漏症が増える傾向にあります。

<栄養要因>

年齢にあっていない栄養バランスの食餌や、糖質・脂質を過剰に摂取させた場合は、脂漏症を起こす可能性があります。年齢にはいくつかのステージがありますので、それぞれの年齢ステージにあった適切な食餌を与え、過剰なおやつを与えないように注意しましょう。

脂漏症になりやすい犬種

脂漏症に最もなりやすいといわれている犬種は、アメリカン・コッカー・スパニエル、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア、シー・ズーです。

また、ビーグル、ダックスフンド、プードル、バセット・ハウンドもなりやすい犬種だといわれています。

ただし、代謝異常、皮膚炎、食事などの要因が強く関与している場合は、上記以外の犬種でも脂漏症になりますので、安心はできません。

脂漏症の治療方法

脂漏症の治療は、薬物療法とスキンケアを中心に行い、必要に応じて環境や栄養の管理を行います。

一般的に行われる薬物療法には、次のようなものがあります。

<ステロイド>

主に皮膚の炎症とかゆみを緩和するために使われる薬で、即効性があります。ただし、副作用があるため長期的な使用はできません。治療が長期に及ぶ場合は、副作用が発現しないように投与量や投与間隔を調整し、代替え療法を検討する必要があります。

<免疫抑制剤>

アトピー性アレルギーを持っている犬が脂漏症を発症した場合は、免疫抑制剤も使用します。

<抗真菌薬>

マラセチアの増殖が認められた場合は、抗真菌薬を使用して、マラセチアの増殖に対処します。

<ホルモン調整剤>

ホルモンバランスの乱れによる代謝異常が原因である場合は、ホルモン調整剤を使用したホルモンの調整を行います。

スキンケアについては次節で、栄養管理、環境管理については次々節で説明していきます。

脂漏症のスキンケア

スキンケアの基本的な流れは、入浴、シャンプー、保湿です。シャンプーには、通常の皮脂落とし、抗菌、強い皮脂落としと3種類があります。この基本的な流れとシャンプーの種類を、脂漏症の状態や程度に合わせてうまく組み合わせて対応していきます。この、脂漏症の状態や程度に合わせて適切なシャンプーを使い分けることがポイントになります。

A. 入浴

シャンプーの前の入浴は、角質を軟化させることができ、皮膚の汚れを落とすために有効です。硫黄泉、重曹泉、マイクロバブル浴などが皮脂の除去に有用です。

B-1. 皮脂落とし

皮脂よごれやフケを効率的に除去するため、高級アルコール系界面活性剤配合のシャンプーの使用が推奨されます。特に、硫黄、乳酸、サリチル酸、トリクロロ酢酸などが配合されているシャンプーが、皮脂やフケの除去に効果的です。

B-2. 抗菌作用

マラセチアが増殖している場合には、抗菌作用のあるシャンプーも併用します。クロルヘキシジン、ミコナゾール、ピロクトンオラミンなどの抗菌成分が入ったものを使用します。ただし、皮脂落としと抗菌のシャンプーは、分けて使用すると良いでしょう。両方のシャンプーが必要な段階では面倒に感じるかもしれませんが、マラセチアの増殖がおさまった後、そのまま皮脂落としのシャンプーのみを行うことで、必要なケアを継続することができます。

B-3. 強い皮脂落とし

重度な症状で強力な皮脂落としが必要な場合には、過酸化ベンゾイル、二硫化セレンが有用です。しかし、この場合も全身に適用するのではなく、全身はB-1レベルで洗浄し、特に症状の重い部分にのみ強い皮脂落としのシャンプーを適用する方法がおすすめです。

C. 保湿

入浴、シャンプーを行なった後は、必ず保湿を行いましょう。油性脂漏症の場合は、ローションやスプレーなどの、ベタつかずにさっぱりと仕上がるタイプのものを使用すると良いです。逆に、乾性脂漏症の場合は、スクラワンなどの動植物油や脂肪酸などを含んだ油剤を使用すると、フケの緩和に効果を発揮する場合があります。また、フケが過剰に出ているとか、慢性化して皮膚がゴワゴワになってしまっている場合は、尿素クリームなどの角質軟化作用のある成分を含んだものが効果的です。

上記のうち、A + B-1 + Cは、どのような症状の場合にも適用できる基本型となるスキンケアです。そこに、マラセチアの増殖が見られる場合はB-2を、特に症状がひどい部分にはB-3を適宜追加することで、愛犬の症状にあったスキンケアを行いましょう。

脂漏症のケアで気をつけたいこと

脂漏症の原因として、環境と栄養について触れました。環境要因としては、高温多湿を避けるべきですので、夏季における室温を25〜28℃、湿度を60〜70%に維持するよう、管理しましょう。栄養要因としては、適切な栄養バランスの食餌を与えることが重要です。おやつ等で糖質や脂質が過剰になっている場合は、一旦中止して、症状の改善がみられるかどうかを確認しましょう。また、乾性脂漏症の場合は、必須脂肪酸を含んだ食餌への変更やビタミンA・Eや亜鉛の補給を検討してみましょう。食餌を変更したからといって、すぐに改善される訳ではありません。3ヶ月は様子を見る必要があります。

また、脂漏症の症状は多汗症と混同されやすいので、脂漏症のスキンケアを続けても効果が出ないという場合は、多汗症を疑ってみることも必要かもしれません。いずれの場合も、飼い主さんが勝手に判断するのではなく、動物病院とよく連携した上で、ケアにあたりましょう。

*参考図書、文献

・『獣医皮膚科専門医が教える 犬のスキンケアパーフェクトガイド』interzoo

・『トリマーのための ベーシック獣医学』ペットライフ社

執筆者:nicosuke-pko先生

小動物看護士、小動物介護士、ペット飼育管理士農学部畜産学科卒業後、総合電機メーカーにて農業関係のシステム開発等に携わる。飼い猫の進行性脳疾患発症を機に退職。

 小動物関連の資格を取得し、犬や猫の健康管理を中心とした記事を執筆しながら飼い猫の看病を中心とした生活を送っている。自分の経験や習得した知識を元に執筆した記事を通して、より多くの方の犬や猫との幸せな暮らしに役立ちたいと願っている。