犬の脱毛症の原因・症状、治療法、予防する5つのポイント【動物看護士執筆】

犬の脱毛症の原因・症状について

執筆者:竹内Coco先生

動物看護師、トリマー

犬は全身を毛で覆われている動物です。被毛には体温を調節するという役割があり、人が衣替えをするように、犬も暑くなったり寒くなったり季節の変わり目に被毛が生え変わることで体温を調節しています。

ですから、生え変わりの時期には多くの毛が抜けることもありますが、それ以外で脱毛している場合や、明らかに部分的に毛がない場合にはなんらかの原因により脱毛症を起こしている可能性があります。

脱毛症とひとくちに言っても原因は様々。そこで犬の脱毛症の原因となり得る主な病気や原因、治療法についてご紹介します。

アトピー性皮膚炎

原因と症状

アトピー性皮膚炎は、ノミ・ダニ・ハウスダスト・花粉などの環境要因にアレルギー反応を示す皮膚病です。アレルギーの原因となるアレルゲンに接触することで痒み・赤み・脱毛などを引き起こします。痒みにより愛犬が掻くことでかさぶたなども起こります。

治療法

環境要因は全て取り除くことは難しいものですが、なるべくアレルゲンの除去を心掛けます。主に投薬やシャンプーなどによる痒みのコントロールがメインとなります。

好発犬種

柴犬、ウェスト・ハイランド・ホワイトテリア、ボストン・テリア、シー・ズー、ヨークシャー・テリア、ゴールデン・レトリバー、トイ・プードルなど。

アレルギー性皮膚炎

原因と症状

環境要因以外が引き起こす一般的なアレルギー性皮膚炎に

  • ノミアレルギー
  • 食物アレルギー

があります。主な症状は痒み・赤みですが脱毛することもあります。

ノミアレルギーはノミに噛まれたときの唾液や、排泄物などがアレルゲンとなり起こるアレルギー性皮膚炎です。食物アレルギーは、食べ物がアレルゲンとなって起こるアレルギー性皮膚炎。原因となるのは主にタンパク質で牛肉、小麦、鶏肉・卵・魚など様々です。

治療法

ノミアレルギーの場合は駆虫薬やシャンプーなどを使用しノミを駆除します。食物が原因となっている食物アレルギーでは、その食物が使用されていないフードに切り替えます。どちらもアレルゲンを取り除くことが重要です。

好発犬種

特になく、どのような犬種でも起こり得ます。

脂漏症、マラセチア皮膚炎

原因と症状

脂漏症は皮脂の分泌が過剰であったり、不足したりして起こる皮膚病です。過剰な場合にはベタベタした皮膚になり嫌な脂っぽい匂いがします。逆に不足していると皮膚が乾燥しフケや脱毛が見られます。

脂漏症の原因として考えられるものは様々で、なかなか特定することが難しいとされていますが、皮脂の分泌量が増えるホルモン疾患を持っていたり、食べ物に含まれる脂肪分が多かったりするとなりやすいと言われています。

また、皮脂の分泌が過剰なケースでは、マラセチアを併発することが多くなります。マラセチアとはマラセチア菌という真菌。皮脂などをエサとして通常健康な皮膚にも存在していますが、脂漏症となり皮脂の分泌が過剰になると異常繁殖し皮膚炎を起こすものです。

治療法

治療法はシャンプーでマラセチア菌や過剰分泌した脂を洗い流すことが有効的です。ただし乾燥性の脂漏症の場合は洗いすぎには注意が必要となります。

糸状菌やマラセチアなどの真菌を併発している場合には、それぞれに応じた飲み薬や塗り薬も処方されます。

好発犬種

どのような犬種でも脂漏症、マラセチア皮膚炎を起こす可能性がありますが、中でも好発犬種とされているのが以下の通りです。

・乾性脂漏症になりやすい犬種

アイリッシュ・セター、ジャーマン・シェパード・ドッグ、ダックスフンド、ピンシャー

・油性脂漏症脂漏症になりやすい犬種

コッカ―・スパニエル、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア

・マラセチア皮膚炎になりやすい犬種

ウエストハイランド・ホワイト・テリアやコッカー・スパニエル、トイプードル、ダックス、レトリーバー系、シーズーなど。

顔にしわがあり、皮脂の溜まりやすいパグなどや、耳が群れやすいタレ耳の犬種なども注意が必要です。

皮膚糸状菌症

原因と症状

皮膚糸状菌症と呼ばれるカビ(真菌)の一種が原因となる皮膚病です。円形の脱毛が起こるのが特徴的で、フケや赤みを伴うこともあります。

この皮膚糸状菌症は、通常身近に潜んでいる菌ですがそれほど強力な感染力を持っているわけでもないので、健康な犬であれば感染しにくいものです。免疫力の低い若齢の子犬や高齢の犬、体力が落ちているときなどに感染しやすくなります。

治療法

抗真菌の塗り薬や内服による治療が一般的です。また抗菌作用のあるシャンプーで洗ってあげることも効果的。同時に免疫力をアップすることも大切となります。

好発犬種

どのような犬でも発症する可能性はありますが、ヨークシャー・テリアでは被毛で菌が育成され、感染原因となりやすいと言われています。

膿皮症

原因と症状

ブドウ球菌や、レンサ球菌と呼ばれる細菌が皮膚で異常繁殖することで、炎症を起こし可能する皮膚病です。通常であれば、ある程度の細菌に打ち勝つ力を持っていますが、免疫力が落ちている犬や、傷に細菌が繁殖してしまうことで発症します。

痒み・赤み・脱毛・湿疹・かさぶたなどが症状として挙げられます。表皮で起こる軽度なものから皮下組織にまで及ぶ重度なものまで様々です。

治療法

繁殖している細菌に有効な抗生剤を投与します。クリームや軟膏などの塗り薬を塗ることで局所的な痒みを和らげることもあります。薬用シャンプーを用いて、皮膚を清潔に保つよう心掛けるのも重要です。

好発犬種

特になく、どのような犬種でも起こり得ます。

アカラス

原因と症状

別名、ニキビダニ・毛包虫などとも呼ばれる寄生虫が起こす皮膚炎です。アカラスは通常、健康な皮膚にも存在している寄生中ですが、母体からの感染、免疫力の低下、他の皮膚病により皮膚状態が悪化しているなど、様々な理由により異常繁殖すると皮膚炎を起こしてしまいます。

治療法

アカラスの治療薬とされているものはありませんが、フィラリアやノミ・ダニ駆虫薬が効果的であることが多く、これらによる駆虫が行われます。他の皮膚病の併発や細菌感染を防ぐためシャンプーにより皮膚を清潔に保つことが大切です。子犬が発症した場合には軽度で自然と治ることもあります。

好発犬種

特になく、どのような犬種でも起こり得ます。

クッシング症候群

原因と症状

副腎皮質から分泌されるコルチゾールというホルモンが過剰に分泌されることにより起こる病気です。飲水量が増える・左右対称の脱毛・太るなどの症状が現れます。それ以外の症状が現れにくいので飼い主さんが見落としやすい病気でもありますが、突然死するケースもある怖い病気です。

ホルモンの異常分泌は、ホルモンを出す指示をする脳の下垂体、もしくは副腎そのもののどちらかに腫瘍があることが原因となりますが8~9割は、脳下垂体の腫瘍によるものだと言われています。

治療法

下垂体の腫瘍が原因となっている場合には手術による摘出が難しく、可能な病院も限られるため、コルチゾールの分泌を下げる内服による治療が行われるのが一般的です。副腎そのものに腫瘍が見られた場合には、外科手術が行われることもあります。

原因や腫瘍の大きさなどによって治療方針も変わってくるでしょう。

好発犬種

プードル、ダックスフンド、シュナウザー、ボストン・テリアなどが挙げられますがその他の犬種でも発症します。

甲状腺機能低下症

原因と症状

のどの下にある甲状腺からのホルモンの分泌量が減ってしまう病気です。甲状腺ホルモンは体の代謝を活発にするホルモンですので元気がなくなったり、左右対称の脱毛を起こしたり、毛艶がなくなったりします。

治療法

分泌量が不足している甲状腺ホルモンをホルモン剤を投与することで補います。基本的には長期、生涯にわたり投薬が必要です。

好発犬種

コッカー・スパニエル、ゴールデン・レトリーバー、ボクサー、柴犬、ダックスフンドなど様々です。

アロペシアX

原因と症状

原因不明の脱毛を起こすのがアロペシアXです。発症する犬の半数がポメラニアンであることから、「ポメラニアン脱毛」とも呼ばれています。1~5歳までの若い犬や去勢をしていないオス犬にもよくみられます。

脱毛以外の症状はなく痒みや赤みなどもありません。脱毛は左右対称に起こり、頭や四肢は脱毛しないのが特徴です。皮膚は黒ずんだり、カサカサしてしまいます。

治療法

原因不明であるため特定の治療法はありません。毛艶や皮膚の乾燥防止にサプリメントを与えたり、ホルモン剤や、抗アレルギー薬を症状に合わせて投薬することもあります。

好発犬種

ポメラニアン、トイプードルなど。

パターン脱毛症

原因と症状

パターン脱毛症は脱毛以外の症状を伴わず、痒みなどのない脱毛症です。生後半年~1歳頃の若齢の犬に発症し、はっきりとした原因は分かっていません。

治療法

はっきりとした原因が分らず、遺伝によるものが多いとされているので決まった治療法は残念ながらありません。その他の病気が原因となっている脱毛ではないかしっかりと診察してもらう必要があります。

好発犬種

ダックスフンド、チワワ、ミニチュア・ピンシャー、トイ・プードル、ボストン・テリアなど。

ストレス性脱毛症

原因と症状

犬はストレスを感じると脱毛することがあります。不安や不快、思い通りにならないことなど心因性によるものが原因となり毛細血管が収縮し、血行が悪くなることで毛が抜けてしてしまいます。

また、犬はストレスを感じると手足や体を必要以上に舐めたり噛んだりすることがあるのでその行動により脱毛したり皮膚炎を起こしてしまうケースもあります。

治療法

心因性によるものなのでまずはストレスを感じている原因を取り除いてあげることが重要です。診断にはその他に病気が隠れていないかをしっかりと判断したうえで行う必要があります。

どうしてもストレスが解消されず、改善が見られない場合には、精神安定剤などの服用が必要なケースもあります。

好発犬種

特になく、どのような犬種でも起こり得ますが、怖がりな子や精神的に弱い子などストレスを受けやすい犬がなりやすいものです。

脱毛症を予防する5つのポイント

まずは原因を特定することが大切です。皮膚病による脱毛症だけでも、2つの皮膚病を併発しているケースや、様々な可能性があり原因の特定が難しいことがあります。さらに脱毛という症状には、代表的なものだけでもこれだけ多くの病気が潜んでいる可能性があります。

予防法がないような難しい病気もありますが、なるべく脱毛症にかからないように日常で気を付けるポイントを5つご紹介します。

日常ケア

日常ケアでも防げる脱毛症はあります。まずは犬の皮膚を清潔にしておいてあげることが大切です。健康な皮膚状態であれば、月に1~2回シャンプーをしてあげることが望ましいでしょう。

皮膚病を発症しているときには使用するシャンプーが洗浄力の強いもの、逆に保湿力のあるもの、洗う頻度など症状によって変わってくるので適宜獣医師の指示に従って行ってあげましょう。間違ったシャンプー方法は逆効果になってしまうこともあるので注意してくださいね。

また、ノミアレルギーの原因を寄せ付けないためにも、ノミ・ダニなどの寄生虫予防をしておいてあげることも大切です。アレルギーが出なくてもノミに噛まれると痒くなり、その部分を執拗に掻いたり噛んだりして皮膚が炎症を起こし、二次的に皮膚炎を併発してしまうこともあります。

ノミは一度ついてしまうと非常に厄介なものです。家に入れてしまい卵を産み落とされると、犬自身に駆虫薬を使用しても、また卵が孵化し犬につくという悪循環を起こし、家全体に駆虫薬を使用しなければならなくなります。

ノミが噛むのは犬だけでなく、人にも被害のあるものです。多くは月に1度予防薬を投薬してあげるだけですので、予防できるものは事前に予防を心掛けてあげましょう。

清潔な環境

犬自身はもちろんですが、犬の身の周りを清潔にしておくことも重要です。寝床に使用している毛布やタオルなどはこまめに洗ってあげましょう。

トイレやゲージも定期的に拭き掃除したり洗ったり清潔にしておくことで雑菌の繁殖が防げますし、ハウスダストなどアレルギーの元となるアレルゲンを物理的に取り除くことができます。

ストレスの少ない生活

犬にとってストレスはときに体調の変化をきたすほど負担の大きいものです。脱毛症はもちろん、下痢などお腹を壊してしまう子もいます。また、犬はストレスを受けると免疫力が低下してしまいます。

免疫力が低下すると抵抗力が落ち、脱毛症以外にも色々な病気にかかりやすくなってしまうのです。通常であれば普段から皮膚にいる皮膚糸状菌症やマラセチアなどの酵母菌も異常繁殖してしまい皮膚病の元となってしまいます。

ストレスと言っても飼い主さんが気づかないような些細なことがストレスになっているケースもあるでしょう。最近留守番の時間が増えた、近所で工事が始まった、雷の音、来客が増えた、食事の質が落ちたなど原因は様々です。

全てを取り除くのは難しいかもしれませんが、なるべく愛犬の様子に注意を払って、どういったことにストレスを受けているかよく見てあげてくださいね。

栄養素

脱毛症を予防するには、食事の見直しなども重要です。皮膚や健康にとって必要な栄養素がしっかり足りているか確認しましょう。特に脱毛症に有効な栄養素が次の3つです。

・「タンパク質」

皮膚や被毛、筋肉、血液など体のあらゆる組織をつくるために必要な栄養素がタンパク質です。タンパク質が不足すると皮膚が乾燥したり、毛がパサパサになり毛艶が悪くなったりしてしまいます。皮膚病にもかかりやすくなってしまうので注意が必要です。

タンパク質には動物性タンパク質と植物性タンパク質がありますが、犬にとって最適なタンパク質は動物性のものです。植物性のタンパク質は犬にとって消化しにくいものが多いので、とうもろこしなどの穀物が主原料となっているものより、肉類が主原料となっているものを選んであげましょう。

・「EPA」や「DHA

「EPA」や「DHA」はオメガ脂肪酸に分類される必須脂肪酸で、体内では合成できない栄養素です。そのため食べ物から摂取する必要があります。これらの成分には炎症を抑える作用もあります。

こういった栄養素を摂取できているか確認し、フードで不足している場合はサプリメントなどを取り入れることも有効的です。

・「ビタミン」

ビタミンB群に分類される「ナイアシン」や「パントテン酸」、「イノシトール」などはセラミドを合成する役割を担っているので、皮膚を乾燥から守ってくれる栄養素です。

またビタミンCやEには抗酸化作用があり、皮膚の老化も防いでくれます。ビタミンAは表皮の生成を助けたり皮膚の脂分を調整する働きを持っています。

ビタミンには多くの種類がありますが、皮膚の状態を良好に保ってくれる成分が多いものです。ただし、特に水に溶ける水溶性ビタミンでない、脂溶性ビタミンは過剰摂取すると体に影響を与えるものもあるので注意が必要です。

免疫力アップ

免疫力をアップすることは、脱毛症や皮膚病だけでなく様々な病気から健康を守ってくれる効果があります。

免疫力アップには、先程お伝えした栄養素をはじめ栄養バランスの優れた食事やストレスのない生活、適度な運動などが大切です。つまりは健康的な生活が一番重要なのです。ですが特に高齢になってくると免疫力は落ちやすくなります。

綿気力アップにはサプリメントなどの使用も効果的です。それぞれ不足しているものを補ってあげるサプリメントを活用するのも良いですし、内側から免疫力そのものを高めるには腸内の免疫細胞を活発化させる「βグルカン」を含む「キングアガリクス」などもお勧めです。

サプリメントは薬ではないため長期的に使用することが可能ですが、安心・安全な品質のものを与えてあげてくださいね。

犬の脱毛症の原因・症状まとめ

脱毛症の原因はたくさんあります。皮膚疾患だけでなく、なかには命に関わるような病気が原因となっていることもあります。痒みや赤みがないからといってただの脱毛だと楽観視せず、なるべく早く治療を開始してあげることが重要です。

また、脱毛症にならないよう日常でできることは注意をしてあげて、なるべく愛犬から脱毛症を遠ざけてあげてくださいね。

執筆者:竹内CoCo先生

経歴:大阪コミュニケーションアート専門学校ペットビジネス科ペットトリマーコース(現在の大阪ECO動物海洋専門学校)卒業。

ペットショップ勤務を経て、現役動物看護士。動物病院で勤務している立場から、「正しい知識を持ってペットと幸せに暮らしてもらいたい」という気持ちで正確な情報をお届けします。