目次
皮膚病だけではない!犬の脱毛症の原因と3つの予防法とは?
執筆者:後藤大介先生
獣医師、アイビークリニック院長
犬の脱毛症について
犬は全身のほとんどの部位を毛で覆われている動物です。そのため、皮膚病が起こるとそれに伴って毛が抜けることが多く、脱毛症は皮膚病のサインとして、飼い主さんが気付きやすい症状の一つです。
また、毛が成長するためには、蛋白(たんぱく)質やビタミン、さらにはホルモンなどさまざまな物質が必要です。それゆえ、脱毛症は皮膚病だけでなく、ホルモン疾患や全身的な栄養障害などによっても起こることがあります。つまり、犬の脱毛症に気付くことは、犬の健康管理をする上でも大変重要となります。
犬の脱毛症の原因
犬の脱毛症はさまざまな病気が原因となって起こります。まずは犬に脱毛症を起こす原因(病気)について知っておきましょう。
感染症
犬には脱毛を起こす感染症が多く発生します。
皮膚糸状菌症(ひふしじょうきんしょう)
皮膚糸状菌は真菌(いわゆるカビ)の一種であり、人の水虫の原因である白癬菌の仲間です。糸状菌は自然界では土の中に生息する菌であり、犬や猫の毛に感染して脱毛を引き起こします。
皮膚糸状菌症に感染した犬は、初期には手足や耳などの局所的な脱毛が起こることが多く、犬の脱毛症の原因として非常に多い病気です。進行すると、局所の脱毛が全身へ広がってしまうこともあります。
皮膚糸状菌は人獣共通感染症であり、人に感染することもあります。ただし、水虫とは種類が違う菌であり、ヒトの皮膚には赤い円形の斑点を作ることが多いです。
ダニ(疥癬・ニキビダニ)
疥癬もニキビダニも目に見えないダニの一種であり、どちらも脱毛を起こします。どちらのダニも免疫力の弱い幼齢犬に発生することが多いですが、高齢犬やがんなどの全身的な病気を持つ犬にも発生することがあります。
疥癬症は、皮膚病の中でも最も痒みの強い疾患であると言われており、寝れないくらいの痒みが特徴になります。カサカサしたかさぶたが、顔回りや肘などにできるのが、疥癬症の特徴です。
一方、ニキビダニは手足の先に痒みと赤みを起こすことが多いです。子犬や免疫の低下した犬では全身にニキビダニが広がり、全身の毛が抜けてしまうこともあります。
細菌性皮膚炎(膿皮症)
皮膚の細菌感染は膿皮症とも呼ばれ、脱毛も膿皮症の症状の一つです。膿皮症では、お腹や背中などの体幹部や手足などに、斑点状の脱毛と薄いかさぶたができることが多いです。膿皮症は子犬に多いですが、成犬でもアレルギーやアトピーなどに伴って出て来ることも多い一般的な皮膚病です。
炎症性皮膚炎
炎症がメインの原因となる皮膚炎も犬には多く発生し、脱毛を引き起こします。
湿性皮膚炎(ホットスポット)
湿性皮膚炎は、ホットスポットとも呼ばれ、ジュクジュクした皮膚炎と脱毛が特徴の皮膚炎です。
舐めることで一気に脱毛が広がることが多く、一晩で非常に大きな脱毛斑ができてしまうことも珍しくありません。何らかの痒みが原因となって、舐め続けることでホットスポットができてきます。
アレルギー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎や食物アレルギーなどのアレルギー性疾患も皮膚に炎症を起こし、脱毛を引き起こす原因となります。手足の先や脇、内股、顔回りにかゆみを伴う脱毛が見られる場合には、アトピー性皮膚炎や食物アレルギーの可能性が強くなります。
また、ノミによる皮膚炎は、ノミアレルギー性皮膚炎と呼ばれます。背中やしっぽの付け根などに強い痒みがある場合にはノミアレルギー性皮膚炎の可能性が高くなります。
免疫介在性皮膚炎(天疱瘡など)
犬には自分の免疫が自分の皮膚を攻撃する免疫介在性皮膚炎と呼ばれる病気があります。免疫介在性皮膚炎には天疱瘡などいくつかの病気がありますが、その多くが皮膚粘膜移行部(口の周り、鼻の周り、肛門周りなど)の皮膚に脱毛を起こします。
免疫介在性皮膚炎は、原因不明の脱毛と言われてしまうこともあるため、皮膚科が得意な動物病院で診てもらわないと診断がつかないケースも珍しくありません。免疫介在性皮膚炎は、腎臓などに炎症を引き起こし命に係わる状況まで進行することもある怖い皮膚病です。
外傷
皮膚の脱毛は、外傷によっても発生します。
けんか
多頭飼いの家では、同居件同士のケンカも脱毛の原因となります。多頭飼いの家で、出血やケガを伴う脱毛が突然起こった場合には、けんかが原因である可能性もあります。
やけど
ストーブなどで毛が焼けてしまったり、熱湯などで皮膚がただれてしまうと、やけどによる脱毛が起こります。広い範囲のやけどは、感染や脱水によって命にかかわることがあるので注意が必要です。また、やけどによる脱毛では毛根が破壊されてしまうため、やけどが治っても毛が生えてこないケースが多いです。
皮膚以外が原因となる脱毛
脱毛症は皮膚の異常が原因で起こるとは限りません。以下のような全身疾患でも、一つの症状として脱毛が出て来ることがあります。皮膚以外に原因がある脱毛症では、皮膚の赤みや痒みがあまりないことも多く、気が付いたら毛が抜けていたり、全体的に薄くなっていたりするといった症状で気付かれることも多いです。
ホルモン疾患
甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症は犬の脱毛の原因として多く発生します。皮膚の痒みがある場合もないケースもありますが、毛艶が悪くなり全身の毛が徐々に薄くなってくるのが特徴です。また、しっぽの毛が抜けてはげてしまう「ラットテイル」も甲状腺機能低下症の特徴の一つです。
クッシング症候群
腎臓の近くの副腎という臓器からホルモンが出すぎてしまう病気がクッシング症候群です。クッシング症候群を発症した多くの犬では、飲水量と尿量が増える多飲多尿という症状が出て来ることが多いですが、脱毛症もクッシング症候群の特徴の一つです。クッシング症候群では、左右対称性に脱毛が進むことが多いです。
栄養不良
ビタミンやミネラル、蛋白質が極端に不足した場合には、毛を作るための栄養素が不足して脱毛症が出て来ることもあります。ドッグフードを食べている犬では栄養不良による脱毛はほとんどないですが、手作り食や人のご飯を食べている犬では注意が必要です。
また、品質の悪いフードを食べていると脱毛しなくても毛艶が非常に悪くなるケースもあるので毛艶も気にして見てみて下さい。
年齢別・犬種別に多い脱毛の原因
年齢によってよくある脱毛症
年齢によって、脱毛の原因として多く見られる病気が違います。
幼齢(~生後半年)
生後半年くらいまでの幼齢犬では、ダニや真菌、細菌などの感染症による脱毛が多くみられます。
若齢(生後半年~6歳)
生後半年~6歳くらいまでの若齢犬では、怪我やアレルギー疾患による脱毛症が多くみられます。特に、かゆみを伴う皮膚病を何度も起こす場合には、アトピー性皮膚炎や食物アレルギーの可能性が高いので注意が必要です。
高齢(7歳以上)
7歳以上の高齢犬には、ホルモン疾患に伴う脱毛症が多くみられます。高齢になってから初めて脱毛が見られた場合には、ホルモン測定を含む血液検査をしてもらった方がいいでしょう。
アレルギー性皮膚炎の多い犬種
基本的に脱毛症はどの犬種にも起こりますが、アレルギー性皮膚炎は以下のような犬種に非常に多く発生します。
- 柴犬
- シーズー
- ウェストハイランドホワイトテリア
- フレンチブルドッグ
- ボストンテリア
- ゴールデンレトリーバー
脱毛を見つけたときの対処法
では、愛犬に脱毛を見つけた場合にはどうしたらいいでしょうか?
怪我が疑われる場合
喧嘩などのけがによる脱毛が疑われる場合には、軽く消毒や洗浄をして様子を見ることもできます。犬用の消毒薬がない場合には、水道水で軽く洗い流しておくだけでも違います。
ただし、脱毛部位を痛がったり、膿が出てくる場合には薬が必要になります。また、怪我だと思っていても病気による脱毛であることもあるので、脱毛が広がってくる場合や数週間たっても毛が生えてこないなど病気による脱毛の可能性が高い場合には、動物病院で診察してもらうことが大切です
舐めている場合
脱毛症の原因はいくつかありますが、毛が抜ける直接の原因は、自分で舐めて抜けてしまうか、毛が弱くなって抜けてしまうかのどちらかです。
そのため、自分で舐めているのかどうかを観察しておくことが大切です。自分で舐めているときは、舐めることで脱毛が悪化するため、犬が舐めないように対策を取ることが大切です。ただし、犬が皮膚を舐めるのは、アレルギーや寄生虫などによる痒みが原因である可能性もあり、その原因の治療が必要になることが多いです。
脱毛が治らない・広がる場合
脱毛の原因は多岐にわたり、その治療法はさまざまです。そのため、まずは動物病院に行き、その原因を検査してもらい、治療法を相談する必要があります。
脱毛症そのものは命にかかわることは少ないですし、犬は毛が抜けていても気にすることはありません。ただし、かゆみを伴う脱毛があれば、かなりストレスがかかります。また、脱毛の原因となる病気によっては、全身的な状態の悪化や命に係わる状況の変化が起こる可能性もあります。
緊急で受診する必要のある脱毛症はほとんどありませんが、脱毛が治らない場合や広がる場合には早めに動物病院で診てもらうことをおすすめします。
脱毛を見つけたときのNGな行動
脱毛を見つけたときに、自己判断でやりがちな行動のうち、状態を悪化させてしまう可能性のあるものを挙げておきます。
かさぶたを取る
脱毛部位にかさぶたが付いていることは多いです。かさぶたは、皮膚の一部にダメージがあった後に皮膚を守るためのものです。かさぶたを無理に取ると、再び出血や感染を起こして治りが悪くなってしまったり、痒みが出てしまうことがあります。かさぶたを見つけても自然に取れるまで自分では取らないようにしましょう。
通常、かさぶたは見つけてから1~2週間で撮れて来ることがほとんどです。それ以上かさぶたが付いている場合は、かさぶたの下の皮膚が感染していたりする可能性が高く、薬が必要になります。
原因がわからない状態でシャンプーをする
皮膚病の治療にシャンプーを使うことは多いですが、シャンプーをすることで悪化させてしまう病気もあります。
激しい皮膚のダメージを起している疥癬などの感染症や、やけどなどによる脱毛症の場合には、シャンプーがしみて非常に痛がることがあり、シャンプーはNGです。また、アトピーやアレルギーの犬に刺激性の強いシャンプーを使うと、シャンプー後に痒みや炎症がひどくなることがあります。
脱毛の治療に使う薬やサプリメント
動物病院で脱毛症を診断した場合には、以下のような薬やサプリメントを使うのが一般的です。
内服薬(飲み薬)
脱毛の原因によって使う薬は違いますが、内服薬を使うケースは多いです。
細菌感染に対する抗生物質、寄生虫の時に使う駆虫薬、真菌症に使う抗真菌薬だけではなく、ホルモン疾患に使うホルモン製剤や、アレルギーやアトピーの時に使う免疫抑制剤など、脱毛症に使う薬はさまざまあります。
外用薬(塗り薬)
局所的な脱毛に対しては外用薬を使うことがあります。皮膚病に使う外用薬には、消毒薬や抗菌薬、抗真菌薬、消炎剤などが含まれています。
サプリメント
皮膚の脱毛症にサプリメントが有効であることは多いです。人の薄毛のためのサプリメントが多く販売されているように、犬の脱毛に対するサプリメントもいくつかの種類があります。
サプリメントには、毛をつくるための栄養素の補充だけでなく、毛穴の状態を改善したり、炎症を抑える作用が期待される成分が含まれています。また、サプリメントを飲むことで、脱毛の改善するだけでなく、毛艶が良くなることも珍しくありません。
脱毛など被毛のトラブルを防ぐためにできる3つのこと
では最後に、お家で脱毛などの皮膚・被毛のトラブルを防ぐためにできることを知っておきましょう。
栄養面のケア
毛の健康状態は体の栄養状態を反映します。質の悪い食事が脱毛や毛並みの悪さに反映されることがあります。安売りのメーカーのフードを食べている場合には、一度食事の変更を考えてみてもいいでしょう。また、被毛の健康に良いサプリメントを与えてみるのも、効果があるかもしれません。
定期的なシャンプーを
犬のシャンプーはにおいや汚れを落とすためだけのものではありません。シャンプーをすることで、皮膚の血行を促進し、新陳代謝を高めて、皮膚や被毛の健康を維持してあげることができます。
汚れてきたらシャンプーをするというだけでなく、できれば月に1~2回程度、定期的にシャンプーするようにしてあげてください。お家でシャンプーが難しい場合は、ドッグサロンや動物病院でシャンプーをお願いしてもいいでしょう。
スキンシップをしっかり取る
普段から犬とスキンシップをとることで、脱毛や被毛の変化などに早く気付くことができます。特にプードルなどのもう量の多い犬種では、他の毛に隠れてしまい脱毛部位が分かりづらくなることもあります。
また、スキンシップの時にブラッシングをすることで、皮膚の血行を促し、皮膚や被毛の健康を維持することができます。愛犬とのコミュニケーションだけでなく、脱毛予防にもスキンシップは大切です。
犬の脱毛症に関するまとめ
犬を飼っていると、愛犬の脱毛には比較的よく遭遇しますが、その原因はさまざまです。犬の脱毛は皮膚だけの問題ではなく、全身の栄養状態の指標となったり、大きな病気のサインとしても重要な症状です。
脱毛への対処法は病気によって違い、動物病院で診察してもらう必要があるケースは多いです。脱毛の中には、フードやサプリメントで脱毛の予防や皮膚の健康維持が可能になることもある一方、間違った対応をしてしまうと状況を悪化させてしまうこともあります。また、毛の健康にはフードやサプリメントなどの栄養面のケアも大切になります。
日ごろから愛犬とスキンシップをとりながら、体の異変の早期症状の一つとして脱毛症などの被毛の異常に気付けるようにしてくださいね!
参考図書:
Richard W Nelson「SMALL ANIMAL INTERNAL MEDICINE FOURTH EDITION」
執筆者:後藤大介先生
アイビークリニック院長
獣医師
岐阜大学農学部卒業
大阪・北海道の動物病院で約10年間勤務した後、2018年、岐阜でアイビーペットクリニックを開業。