犬のアロペシアXの原因・症状、治療を行うポイントなど【動物看護師執筆】

犬のアロぺシアXについて

執筆者:ramoup先生

認定動物看護師・JKC認定トリマー

最近、「愛犬の毛にボリュームがないような気がする…」と感じてはいませんか?もしかしたらそれは、アロぺシアXという脱毛症のせいかもしれません。

アロぺシアXとは、ポメラニアンなど特定の犬種に起こる原因不明の脱毛症のことです。   「脱毛症」を意味するアロぺシアにXを付けることで、「原因不明の脱毛症」を表しているのですね。そのほか「脱毛症X、成長ホルモン不全症、偽クッシング症候群」などの別名も複数あります。

アロぺシアXになると、犬の被毛は左右対称に薄くなっていきます。毛の生え変わりがストップしてしまうので、新しい被毛はほとんど生えてきません。その後、色素沈着によって皮膚は黒くなり、ハリがなくなってカサついた老人のような状態になります。なお、理由は分かっていませんが、頭や手足の毛は残ることが多いようです。

体に痒みはなく、犬自体は特に気にすることなく生活するというのが、この病気の特徴です。発症時期は犬によってそれぞれですが、1~5歳までの比較的若い頃に発症することが多いでしょう。

アロぺシアXの原因

アロぺシアXが起こる原因は、まだ解明されていません。検査方法も確立されていないため、色々な検査をしても原因が分からない場合に診断されるアロぺシアX。血液検査や皮膚検査をしても異常が見られないので、確実な原因が分からないのですね。

そのため、どんな治療を行うかは獣医師の判断に任せられていて、治療法には多くの選択肢があります。

ちなみに、現時点でアロぺシアXの原因は「内分泌ホルモンによるもの」という説が濃厚です。脱毛の仕方がクッシング症候群に似ていることから「ホルモンの分泌異常」が原因と推測されているのです。

内分泌ホルモンが増えたり、減ったりすることで被毛の生え変わりに影響が出た、ということですね。内分泌ホルモンの分泌が異常になる原因としては、遺伝や体質などが関わっていると考えられています。

※内分泌ホルモンとは、代謝や消化など体がきちんと働くために必要な分泌物のこと。

ホルモン剤の投与や去勢・避妊手術を行うことで、アロぺシアXの症状が改善することも多いようです。

ただ、これはあくまで症状の出方や治療成果から推測されたものです。アロぺシアXが起こるはっきりした原因は、いまだ解明されていないのが現状です。

アロぺシアXになりやすい犬種

アロぺシアXを発症する犬種でもっとも多いのは、北欧出身の愛玩犬「ポメラニアン」です。アロペシアXは、別名「ポメラニアン脱毛症」とも呼ばれるほどポメラニアンの発症数が多いのです。

【アロペシアXになりやすい犬種】

・ポメラニアン
・シベリアン・ハスキー
・サモエド
・アラスカン・マラミュート
・パピヨン
・シェットランド・シープドッグ

アロペシアXのほとんどは、1~3歳までの若齢期に発症します。また、どちらかというとメスよりもオスのほうが発症リスクが高いことも分かっているんですよ。アロペシアXは特定の犬種に多く発症するため、遺伝性の病気と考えられています。

アロぺシアXの治療法

「アロペシアXの原因」でもお話ししましたが、確実なアロペシアXの原因は分かっていません。原因が分からないということは、治療法や特効薬なども開発されていないということです。そのため、アロペシアXの治療では発毛に効果的だと思われる方法を同時進行で行う場合が多いでしょう。

確定的な治療法がないぶん、治療にかかる期間は半年以上の長期間を考えておく必要があります。なかなか治療の成果が出ないので諦めてしまいがちですが、アロペシアXは半年以上かけて治療する病気。

体の中では着々と発毛準備が進んでいるかもしれないので、けっして諦めないでくださいね。

アロペシアXの治療では、主に以下の6つが行われます。複数の治療法を並行することもよくあるので、ぜひ参考にしてください。

ホルモン剤などの投薬

ホルモン剤やステロイド、抗アレルギー薬などを投薬し、発毛を促します。特にホルモン剤の投与はアロペシアXの治療として一般的で、発毛効果も高い方法です。

治療効果が発揮されるかどうかは個体差がありますが、重要なのは根気強く同じ治療を続けること!治まっていたはずの症状が再燃しないためにも、途中で投薬を止めないようにしましょう。

なお、使用するホルモン剤は、甲状腺ホルモン・副腎皮質ホルモン・性ホルモンなど様々な種類があります。また、クッシング症候群の治療薬にも使われるステロイドも効果が期待できるといわれています。

発毛効果があるサプリメントを摂取する

メラトニンなど、発毛効果のある成分を含むサプリメントを摂取する方法もあります。サプリメントには保湿効果が期待できるものが多く、皮膚状態の改善目的で処方されることも。医薬品ではありませんが、副作用が少ないぶん安心して続けることができる治療法です。

去勢・避妊手術を行う

去勢・避妊手術を行うことで、アロペシアXの症状が改善したケースもあります。手術で性ホルモンの分泌に関わる器官(睾丸や卵巣など)を取ることで、ホルモン異常を改善するのです。ただし、手術をしても状態が変わらない場合や、症状が悪化する可能性も0ではありません。

アロペシアXは、去勢・避妊が引き金となって発症する可能性もあるなど、不明な点が多い病気です。手術は全身麻酔下で行うため、体への負担やリスクを含め十分に検討する必要があるでしょう。

薬用シャンプーで薬浴する

薬用シャンプーで皮膚を清潔にして、被毛の発毛サイクルを促します。保湿効果があるシャンプーを使えば、脱毛による乾燥を改善することにもつながりますよ。

アロぺシアXを発症した犬は肌が敏感になっているので、お湯はぬるめの温度に調整すること。直接シャンプー液が皮膚につくのを避けるため、たらいなどで泡立ててから使いましょう。薬用成分がしっかりと皮膚に浸透するように、5~10分程度は洗い流さないことも大切です。

食生活の改善・スキンケアフードを与える

バランスの取れた食事を与えることで、アロぺシアXが改善したケースもあります。正しい食生活は体作りの基本であり、犬が健康に過ごすために欠かすことのできないもの。穀物を多く含んでいたり、脂質が高すぎたりするフードは、犬の体にとって悪影響です。

アロぺシアXをはじめ、様々な病気のリスクを減らすためにも、食事は適切なものを選びましょう。

なお、スキンケアに特化したドッグフードを与える、というのも効果的ですね。オメガ3・6脂肪酸やビタミン類、アスタキサンチンなど、皮膚の健康に役立つ成分はたくさんあります。

愛犬に与えているフードにはどんな成分が入っているのか、ぜひ1度チェックしてみてください。

マイクロニードルによる発毛促進

マイクロニードルという細い医療用の針で皮膚を刺激して、発毛を促す治療法もあります。これは、刺激で活性化する皮膚細胞の特性を利用した治療法で、人のやけど治療でも使われているもの。細い針ではありますが、痛みを感じるので「局所・あるいは全身麻酔」が必要になるでしょう。

なお、アロペシアXは再発率が高く、1度治っても何年後かにぶり返す可能性が高いとされる病気です。できるだけ症状が軽いうちに対処できるように、普段から愛犬の様子をしっかりと観察しておいてくださいね。

どんな病気にもいえることですが、早期発見・早期治療は完治への大きな早道ですから。

アロぺシアXの時に気をつけたいこと

ご存知の通り、アロぺシアXの脱毛は細菌やウイルスが原因で起こるものではありません。もちろん、他の動物や私たち人間にうつることはありませんし、愛犬自身が負担を感じることもないのです。アロぺシアXの問題はあくまで美容的な観点だけなので、他の皮膚病にくらべて注意点も少なめ。

さて、そんなアロぺシアXを発症してしまった時に気を付けるべきこととは一体なんでしょうか?
以下に、アロぺシアXの愛犬と暮らすうえで必要なことを簡単にまとめてみました。

1.細菌などの二次感染には注意しよう

体の毛が薄くなったり、抜けたりしてしまうと、犬は細菌やウイルス感染を起こしやすくなります。あまり知られていないのですが、犬の皮膚は私たち人間の1/5程度しかないほど薄く、かつデリケート。

様々な病原体から皮膚を守ってくれるはずの毛が減ってしまうことで、皮膚はダメージを負いやすくなるのです。

何らかの二次感染を起こした場合、犬の皮膚には赤いポツポツやフケなどがみられるようになります。また、痒みで体を掻きむしることで皮膚のバリア機能が壊れ、発毛が遅れてしまう可能性もあるでしょう。

部屋に潜む病原体は掃除機で吸い取り、ベッドやクッションなどは定期的に丸洗いすること。小さな傷から細菌が侵入してしまう可能性もあるので、草むらや茂みには近づかないことも大切です。お散歩後に手足を洗ったら、水分が残らないようにドライシートなどでよくふき取ってくださいね。

すべてを完璧にする必要はありませんが、できるだけ清潔な環境が維持できるのが理想的ですよ。

2.洋服や保湿剤などで皮膚の乾燥を防ぐこと

アロぺシアXを発症した犬は、頭と手足以外の被毛が徐々に抜けていきます。そのせいで皮膚はダメージを受けやすくなり、乾燥してカサカサの状態になってしまうのですね。

上でも説明しましたが、犬の被毛は病原体や刺激から皮膚を守る、という大切な役割を持っているもの。少しでも愛犬の皮膚に負担をかけないように、被毛の代わりとなる洋服を着せてあげるといいでしょう。洋服を着せてあげることで皮膚への様々な刺激を受けづらくなり、保湿効果も期待できます。

ただし、洋服が苦手な愛犬には無理して着せる必要はありません。洋服で皮膚をガードできないぶん、毎日しっかりと保湿剤を塗り込んであげてくださいね。

アロペシアXのまとめ

アロぺシアXにならないために、予防や日頃のケアのポイント

アロぺシアXは原因不明の病気なので、はっきりとした予防法がありません。もともとの体質や遺伝が発症因子になることを考えると、確実な予防は難しいといえるでしょう。

とはいえ、発症した犬の傾向から「ホルモンの分泌が発症に関係している」のは、ほぼ間違いありません。つまり、アロぺシアXを予防するためには「ホルモンの正常な分泌を促すこと」が大きなポイントです。

ホルモンが正常に分泌されるためには、具体的にどんなことに注意すれば良いのでしょうか?

1.良質な睡眠&適度な運動でストレスを溜めない

普段から適度な運動を心がけ、夜はしっかり睡眠をとらせるようにしましょう。毎日の散歩はもちろん、室内でのおもちゃ遊びや飼い主さんとのスキンシップも大切です。

犬種や年齢によって運動量の差はありますが、とにかく意識して体を動かせるようにしてくださいね。時にはドッグランなどを利用して思いっきり走らせてあげる、というのもおススメですよ。

2.栄養バランスのとれた食事を与える

「体の基本は食事から」という言葉通り、毎日の食事は健康な体作りに欠かせません。栄養バランスの乱れた食事は様々なトラブルを引き起こす原因になるので、フード選びは慎重に。犬が必要とする栄養素の量・種類はライフステージによって変わるので、注意してください。

極端に安いフードにはそれだけの理由がありますから、愛犬には絶対に与えないようにしましょうね。

3.生活リズムを整えて、太陽の光に当たる

ホルモンが正常に分泌されるためには、なにより生活リズムを整えることが大切!ある程度は飼い主さんの生活習慣に合わせることができる犬ですが、本来は昼行性の動物です。昼夜逆転の生活は少なからず愛犬にストレスを与えることになるので、できれば避けたほうが良いでしょう。

日中はカーテンを開けて太陽の光を取り入れ、夜は明かりを消して静かに休ませてあげること。愛犬ができるだけストレスなく過ごせるように、色々と工夫をしてみてくださいね。

執筆者:ramoup先生

経歴:ヤマザキ動物看護大学卒業。認定動物看護師・JKC認定トリマー。
動物病院勤務で培った知識・経験を活かし、「病気に関する情報を分かりやすく」お届けします。愛犬・愛猫の病気について、飼い主様がより理解を深める際のお手伝いができれば嬉しいです。