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アトピー性皮膚炎とは?
ナルセノゾミ先生
動物看護士、愛玩動物飼養管理士
生まれつき皮膚が弱いワンちゃんが罹りやすい、アトピー性皮膚炎。
強い痒みにより掻きむしったり噛んだりすることで、二次感染や皮膚炎が悪化することが多いことも特徴です。
アトピー性皮膚炎は生まれつきの体質が大きな要因のため根源治療が難しく、治療も長期間に渡ります。
そのため、重症化する前に治療を開始し、ワンちゃんに合った治療を選択することが大切です。
アトピー性皮膚炎の症状や治療法、引き起こされやすい合併症や皮膚の健康のために必要な栄養素についてご紹介します。
アトピー性皮膚炎の症状と特徴
アトピー性皮膚炎は、カビ、ハウスダスト、花粉などといった環境要因が体内に侵入しアレルギー反応を引き起こすことで、皮膚に強い痒みが生じ、それに伴い皮膚の赤みや脱毛がみられる皮膚疾患です。
症状が出やすいのは耳の表面、眼や口まわり、指の間、脚の付け根などで、痒みや炎症が見られるようになります。
アトピー性皮膚炎は生まれつきの体質のため、生後3歳頃までに初期症状が現れます。
通常、皮膚は水分や脂分のバランスが保たれることでバリア機能がはたらき、アレルゲンとなる各物質から体を守っています。
しかし、アトピー体質のワンちゃんは、生まれつき皮膚の水分含量が少なく、バリア機能が十分に保たれておらず、さまざまな物質がアレルゲンとなり体に侵入してしまいます。
アレルゲンが体内に入り込むと強い痒みを引き起こし、夜中も体を掻き続けて寝不足になることも。
アトピー体質のワンちゃんはその他のアレルギーにもなりやすい傾向があるため、体を痒がることが多いときは早めに動物病院に相談することが大切です。
アトピー性皮膚炎の診断基準
アトピー性皮膚炎の治療は症状を緩和するための対症療法がメインですが、皮膚の痒みにはさまざまな皮膚病が疑われます。
膿皮症、ノミアレルギー、食物アレルギー、マラセチアなども皮膚の痒みが大きな特徴です。
そしてこれらは根源治療が可能な皮膚病のため、まずはアトピー性皮膚炎以外での皮膚病が発症していないかを慎重に調べる必要があります。
アトピー性皮膚炎以外の原因での痒みをまず取り除き、それでも痒みが残るようであれば、アトピー性皮膚炎であると診断されます。
発症から診断まで時間を要することが多く、その後の治療も長期的に付き合う必要があります。
アトピー性皮膚炎の治療
アトピー体質のワンちゃんは食物アレルギーや他の皮膚病を併発しているケースも多いため、まずは治療可能な皮膚病がないかを見極め、治癒させた後にアトピー性皮膚炎の治療に入ります。
アトピー性皮膚炎であることがわかったら、どのような治療が用いられるのでしょうか。
痒みを抑える治療
強い痒みを抑えるため、初期段階ではステロイドによる治療が用いられることがあります。
ステロイドは即効性がありますが長期使用は副作用のおそれがあるため、初期段階でステロイドにより症状を緩和し、その後は副作用の少ない抗炎症剤を長期的に使用することが一般的です。
しかし、これらの治療は根源的な治療ではなく、あくまでも出た症状に対して緩和させるための対症療法。
アトピー性皮膚炎の症状には波があり、季節や体調によって変化するため、ワンちゃんの状態を見ながらの治療を続ける必要があります。
シャンプー・リンスによるスキンケア
皮膚のバリア機能が低下している、または弱い体質の場合は、皮膚が乾燥している状態になります。
アトピー性皮膚炎は強い痒みがあるため、当然ワンちゃんは体を掻いてしまいます。
掻くことで皮膚が傷ついたり、余計に乾燥がひどくなるため、十分な保湿が必要です。
犬の体は被毛に覆われていますから、クリームなどを塗ることは出来ません。
そのため、保湿はシャンプーで行う必要があります。
2週間~1ヶ月に1度の薬用シャンプーでの外的ケアも併せて行います。
薬用シャンプーを使うことにより、肌の表面についたアレルゲンや余分な細菌、角質を取り除き、保湿も同時に行うことができます。
また、皮膚の水分量を保つことで、皮膚のバリア機能を正常に戻していく目的もあります。
減感作療法
アレルギー全般で用いられ、唯一の根源治療と言われているのが減感作療法です。
アレルゲン物質を薄めたものを体内に注射することで体を慣れさせ、アレルギー症状を起こしにくい体質に改善する治療法です。
この治療が功を奏せば、アレルギー反応から解放される可能性があるため、
しかし、扱っている動物病院がまだ少ないことや、副作用としてアナフィラキシーショックが起こるリスクがあることも。
すべての犬に効果があると断言できる治療ではないため、治療費や通院など、時間、経済面も考慮した上で選択することになります。
アトピー性皮膚炎の合併症
アトピー性皮膚炎を発症している場合、その他の皮膚炎を併発しているケースが多くみられます。
皮膚のバリア機能が低下すると、アレルゲンだけでなくさまざまな細菌が異常繁殖することがよくあります。
アトピー性皮膚炎によって引き起こされやすい合併症をご紹介します。
食物アレルギー
アトピー体質の場合、食事でもアレルギーを起こしやすいことがわかっています。
そのため、アレルゲンとなる食材を使わない除去食試験や血液検査などで、食物アレルギーがないかどうか調べる必要があります。
マラセチア
マラセチアは、犬の皮膚に存在する常在菌です。
本来悪さをしない菌ですが、免疫低下や皮膚の状態が悪くなると異常繁殖し、炎症や外耳炎が引き起こされます。
炎症が起こる部位がアトピー性皮膚炎の症状と似ているため、患部にマラセチアが異常発生していないかを調べます。
皮膚炎を起こしていると皮膚が敏感になり、その他の細菌に二次感染するケースが多いため、一つひとつ検査する必要があります。
膿皮症
膿皮症もマラセチアと同様、もともと皮膚に存在するブドウ球菌が異常繁殖し、湿疹ができる皮膚疾患です。
常在菌による二次感染はアトピーやアレルギーによって引き起こされることが多いため、ワンちゃんがしきりに痒がる様子をみせている場合は早めに動物病院に診てもらうようにしましょう。
ノミアレルギー
アトピー体質のワンちゃんは、ノミに刺されることにより発症するノミアレルギーにもなりやすい傾向があります。
ノミに刺されたときに侵入するノミの唾液、排泄物などがアレルゲンとなるため、ノミに寄生されないようにすることが大切です。
暖かい季節になったらノミ予防をしっかりと行いましょう。
皮膚のバリア機能を高める効果のある栄養素
アトピー性皮膚炎では、対症療法だけでなく、食事から皮膚のバリア機能を高める効果のある栄養素を取り入れることも大切です。
薬のような即効性はないものの、ゆるやかに作用し、体の内側から皮膚を強くすることが出来ます。
健康な皮膚の状態に近づけるために、毎日の食事やサプリメントで必要な栄養を補給してあげたいですね。
良質なタンパク質
皮膚の角質や被毛はタンパク質からできています。
タンパク質が足りないと、皮膚や被毛が乾燥したり、皮膚炎を起こしやすくなります。
良質なタンパク質を食事から摂取することは必要不可欠ですが、食物アレルギーを持っているワンちゃんにとって、アレルゲンとなるタンパク質を食べるとアレルギー反応で苦しむことになります。
もちろん、対象となるタンパク質を与える事はできません。
その場合は、消化吸収に優れた、そのワンちゃんがこれまでに食べたことがないタンパク質を与える方法もあります。馬肉やラム肉など、アレルギー反応が起こっていないタンパク質を食事に取り入れることが大切です。
どのタンパク質であってもアレルゲンとなる可能性はありますが、原材料のタンパク質を体が認識できないアミノ酸レベルまで分解し、加工されたドッグフードもあります。
獣医師に相談の上、食事の面からも皮膚炎の症状を緩和させることが大切です。
必須脂肪酸(オメガ3、オメガ6)
犬が必要とする栄養素の中に、脂肪があります。
脂肪の中でも、体内で合成することが出来ない「必須脂肪酸」とよばれる栄養素は、食事から取り入れる必要があります。
必須脂肪酸は亜麻仁油やサーモンオイルに多く含まれ、皮膚や被毛の炎症を抑えます。
魚油の動物性由来の脂肪酸には、EPA、DHAも含まれており、皮膚炎を沈める効果が期待できます。
皮膚の乾燥を防ぎ、被毛にツヤを与えるために必要不可欠な必須脂肪酸。
特に皮膚の状態が良くないときには、意識して摂取させてあげましょう。
ビタミンC
抗酸化物質であるビタミンCは、皮膚の潤いを保つコラーゲンの合成を助ける栄養素です。
犬は体内でビタミンCを合成することが出来ますが、体で炎症がおこっている場合はビタミンCが不足しがちになります。
乾燥や引っ掻くことで皮膚は硬くなりますが、ビタミンCは皮膚を柔らかくする効果も期待できますし、水溶性ビタミンのため、不要なものは排泄されて安心です。
キャベツやキウイ、ローズヒップなどに多く含まれます。
アトピー体質もワンちゃんの個性。長い目で付き合っていこう。
アトピー性皮膚炎は体質によるものと考えられているため、一度発症すると完治が難しいと言われています。
減感作療法という根源治療もありますが、全てのワンちゃんに効果があるわけではなく、高額な治療費もかかるため、まだまだ一般的ではありません。
痒みはワンちゃんにとっても大きなストレスになりますし、見ている飼い主さんも辛いですよね。
症状の緩和を目的とした対症療法だけでなく、体質改善のために食事やケアで症状を起こりにくくしていくことが大切です。
体質改善は時間がかかりますし、症状にも波があるため根気もいります。
根源治療が出来ずとも、少しずつ体質を改善していくことで、症状の発生を抑えたり、薬が必要なくなったりするケースも多くあります。
アトピー体質もワンちゃんの個性です。
なるべくワンちゃんに負担がかからないような治療を選び、長い目でうまく付き合っていきたいですね。
執筆者:ナルセノゾミ先生
動物看護士、愛玩動物飼養管理士
仙台総合ペット専門学校で、動物看護・アニマルセラピーについて学ぶ。
在学中は動物病院・ペットショップの他、動物園での実習も経験。
犬猫、小動物はもちろん、野生動物や昆虫まで、生粋の生き物オタク。
関わる動物たちを幸せにしたい、をモットーに活動しているWebライター。