脂漏症の原因・治療・予防法、混同されやすいマラセチアとの関係とは?【動物看護士執筆】

執筆者:竹内Coco先生

動物看護師、トリマー

犬の脂漏症について

脂漏症とは様々な原因によって、慢性的に起こっている皮膚病のことを指します。完全に治癒することはなかなか難しい皮膚病で、長期治療が必要となるものです。

脂漏症には大きく分けると皮脂が過剰に出るタイプと、逆に皮脂が不足するタイプの2つの型があります。また、現れる症状によって3つに区別されています。まずは3つの症状の特徴をご紹介します。

乾性脂漏症

皮膚の表面の角質細胞が剥がれフケが皮膚状に蓄積し、乾燥した皮膚状態になります。かさぶたなどはできません。

脱毛は軽度ですが、毛がパサパサと乾燥して艶がなく、美しい毛並みではなくなってしまうのが特徴です。

油性脂漏症

皮脂腺の発達した部分に、フケと皮脂の過剰生成による黄色っぽい分泌物が付着しているのが油性脂漏症です。ベタベタとした脂っぽい皮膚になり、油っぽい悪臭を放つのが特徴的。

外耳炎を併発することが多く、この場合は耳からも独特の嫌な臭いを放ちます。

脂漏性皮膚炎

油性脂漏症にさらに痒みや赤みが起こり、フケや脱毛が増加する症状です。皮膚状態は非常に悪く、かさぶたも多く見られます。

皮膚のバリア機能が著しく低下しているため、毛包が細菌感染を起こす、毛包炎を併発することもあります。

背中、耳、顔、下腹部、胸、肘や足の関節部分など体中に拡大します。激しい痒みから、犬が自身で引っ掻いたり、噛んだりすることで状態が悪化することもよくあるでしょう。

犬の脂漏症の原因

ではこの脂漏症の原因とは一体なんでしょうか。脂漏症の原因には様々なものがあり、なかなか特定することが難しいとされています。皮脂の分泌量が増えるホルモン疾患を持っていたり、食べ物に含まれる脂肪分が多かったりすると油性脂症になりやすいと言われています。

また、皮脂の分泌量が増えたり減ったりすることによって、皮膚の新陳代謝が高まります。これにより、角質化が進むことで乾性の脂漏症となってしまうこともあるのです。

脂漏症には一次性の「原発性脂漏症」と、二次性の「続発性脂漏症」があります。もともと遺伝的な要因として、脂漏症を持っている犬は一次性の「原発性脂漏症」です。この場合は若い時期に発症することが多いでしょう。

「続発性脂漏症」は他の疾患などが原因となり、二次的に起こっている脂漏症のことです。この二次性には次のような原因が関係しています。

ホルモンの異常

皮膚の健康状態やホルモンの生成量には内分泌のホルモンが深く関係しています。甲状腺ホルモンや副腎皮質刺激ホルモン、性ホルモンなどが分泌異常を起こすことで、皮脂が増加したり減少したりしてしまいます。

食事

タンパク質、亜鉛、ビタミンなどのミネラルの欠乏によっても皮膚の角質化が進み脂漏症を起こすことがありますが、特に深く関わっているものが脂肪分。

なんとなく、脂肪分が多すぎると起こりそうなイメージを持ちますが、どちらかというと食事から摂取する脂肪分の質が悪かったり、不足したりすると脂漏症を起こしてしまいます。

もちろん脂肪分を過剰摂取していても起こりますが、一般的には脂肪分の摂取量が減ることでいったんは皮脂が減少し、ホルモンが働くことで次は過剰になってしまうのです。

  • 摂取量の減少
  • 脂肪代謝の欠陥
  • 消化吸収がうまくできていない

これらの原因によって脂肪が不足した結果、脂漏症の原因となります。

アレルギー

二次性脂漏症の原因として多いのがアレルギーによるものです。アレルギーの治療薬にステロイドを使用することがありますが、このステロイドによって皮膚の新陳代謝が高まります。結果的に角質化を起こし、そこへ細菌の繁殖が伴うとさらに治りにくくなってしまいます。

寄生虫・真菌の感染

  • 疥癬、ツメダニ症、毛包虫症、ミミヒゼンダニ症などの外部寄生虫の感染
  • 糸状菌やマラセチアなどの真菌の感染

など、寄生虫や真菌の感染によっても、部分的に脂漏症を起こします。

脂漏症になりやすい犬種

脂漏症は比較的どの犬種にも起こりやすいものですが、特になりやすい犬種はその型によってそれぞれ異なります。

・乾性脂漏症になりやすい犬種

アイリッシュ・セター、ジャーマン・シェパード・ドッグ、ダックスフンド、ピンシャー

・油性脂漏症になりやすい犬種

コッカ―・スパニエル、チャイニーズ・シャー・ペイ

・脂漏性皮膚炎になりやすい犬種

コッカ―・スパニエル、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア、バセット・ハウンド

・遺伝的に脂漏症になりやすい犬種

コッカ―・スパニエル、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア、バセット・ハウンド

・皮膚疾患の多い犬種

二次的に脂漏症が起こることも多いので、皮膚疾患になりやすい犬種も脂漏症のリスクが高いと言えます。

柴犬、ゴールデン・レトリーバー、ダックスフンド、トイ・プードル、マルチーズ、パグなどは注意が必要です。

脂漏症の治療方法

なかなか完治の難しい脂漏症ですが、根気強く治療をすることが大切です。脂漏症の治療には次のようなものが効果的です。

シャンプー

第一に有効的な治療法がシャンプー。嫌な臭いを取り除き、皮膚を清潔に保つことが重要です。シャンプーの使用回数は皮膚の状態によっても変わります。基本的にはフケが増えたり匂いがしてきたらシャンプーを行いますが、過剰にシャンプーをしすぎてもよくありません。

特に乾性脂漏症の場合には、洗いすぎると皮膚がさらに乾燥してしまい悪化を招きます。週に2回以上のシャンプーは控えてください。

油性脂漏症のでは皮膚のベタベタ感を減らすために、薬浴といって浸け置きする方法がとられます。犬の体を薬用シャンプーで洗ったあと10分程度そのまま放置すると薬剤が皮膚に浸透し、有効的です。

じっとしているのが難しい場合には特に気になる部分から洗うようにすると良いでしょう。全部洗い終わるころには数分浸け置きできていてるはずです。

乾性脂漏症の場合には、皮膚を軟化させるシャンプーやリンスを使用したり保湿ケアをしたりします。

脂漏症はベタベタする皮脂過剰タイプや逆に乾燥するタイプ、また他の皮膚炎を併発していることもあり、適しているシャンプー剤や使用回数はそれぞれ症状によって異なります。自己判断で行うと、逆に悪化させてしまうこともありますので、必ず獣医師さんに相談して行ってくださいね。

また、シャンプー後はしっかりと乾かすことが重要です。細菌繁殖や二次感染を抑えるためにも、指の間や足の付け根、耳の付け根など、乾きにくい部分まできちんと乾いているか確認してあげましょう。

飲み薬や塗り薬

糸状菌や真菌を併発している場合には抗真菌薬を使用したり、悪化を防ぐために抗生剤を使用することがあります。

基礎疾患の治療

基礎疾患が原因となっていることの多い脂漏症。まずは原因となる疾患の治療が行われます。ホルモンの疾患を持っていている場合にはホルモン投与などを行います。

食事の見直し

食事の見直しも重要な治療の一つです。脂肪分が多すぎないか少なすぎないか、ビタミン、ミネラルは不足してないかなどを見直す必要があります。食事も獣医師とよく相談をして症状に合った食事に変更すると良いでしょう。

脂漏症とマラセチア皮膚炎の関係

脂漏症はマラセチアを併発しやすい皮膚病です。マラセチアとは、通常皮膚に常在しているありふれた酵母菌です。このマラセチア菌は健康な犬の皮膚には必ずいます。犬だけでなくわたしたち人の皮膚にもいる菌です。ですから完全に排除することはできません。

このマラセチア菌は普段はおとなしく皮脂を食べて暮らしているのですが、様々な原因により異常繁殖するとマラセチア皮膚炎を起こしてしまいます。

その原因となりやすいのが脂漏症。マラセチアは皮脂を餌としていますので、脂漏症により過剰に皮脂が分泌されると、絶好の繁殖チャンスとなるのです。油性脂漏症を起こすと高確率でマラセチア皮膚炎を併発するので、混同されることが多いほど、脂漏症とマラセチア皮膚炎は密接な関係にあります。

脂漏症になると餌となる皮脂が多く、マラセチアが異常繁殖しやすい状態になっているので、適切なシャンプーを行い皮膚を清潔に保つことが重要です。

また、通常であれば皮膚にいても問題のない菌が異常繁殖するということは、皮膚のバリア機能や免疫力の低下も考えられますのでこれらに対処することで二次感染を起こしにくくできるでしょう。

脂漏症にならないために、予防や日ごろのケアの3つのポイント

一度かかってしまうとなかなか治りにくく、付き合っていかなければならない脂漏症。なるべくかからないようにしてあげたいですよね。基礎疾患や様々なことが原因となる皮膚病ですので、完全に予防することは難しいものです。

ですが、日常の中で気を付けることで脂漏症から愛犬を遠ざけてあげられるポイントがあります。ぜひ参考にしてみてくださいね。

栄養バランス

脂漏症の予防には食事の栄養バランスが非常に重要です。先ほどもお伝えしたように脂肪分の過剰・不足、ビタミン、ミネラルの不足により脂漏症は起こりやすくなってしまいます。

一般的に発売されている質の良い総合栄養食は、ビタミン・ミネラル・アミノ酸・脂肪分などバランスよく配合されているので基本的には心配する必要ありません。

しかし質の悪いフードや、飼い主さんが良かれと思って行っている手作り食を食べている場合は注意が必要です。あまりに安価なフードは、質の悪い脂肪分が含まれていることがあります。

また、人と犬が必要な栄養バランスは異なりますので、しっかりと勉強した上で手作り食を与えないと不足な栄養素が出てきてしまいます。日ごろから愛犬の食事の栄養バランスには気を付けてあげましょう。

清潔にする

皮膚や生活環境を清潔に保つことも重要です。定期的にシャンプーを行ったり、日々ブラッシングを行ってあげましょう。毎日のブラッシングは愛犬とのコミュニケーションでもあります。楽しんで行ってあげてくださいね。

毎日ボディチェックを行うことで皮膚の異常にもすぐに気が付いてあげることができます。愛犬が寝ている場所や、使用している毛布などもこまめに掃除・洗濯することで、飼育環境も清潔にしておいてあげましょう。

免疫力アップ

脂漏症の原因は様々ですが、マラセチアなどの真菌や細菌の二次感染を起こさないためにも、免疫力をつけておくことは重要です。

脂漏症に関わらず、免疫力の低下は菌に抵抗する力がなくなり、いろいろな病気にかかりやすくなってしまいます。

免疫力のアップには適切な食事や運動など、健康的な生活を送ることが一番効果的です。また、食事だけでは補うことのできないものをサプリメントから摂取することも良いでしょう。

不足しがちなEPA・DHAなどの必須脂肪酸を含むサプリメントはアレルギーや炎症を抑えてくれます。また、内側から免疫力を高め、治りにくい皮膚炎などにも効果的な「キングアガリクス」もおすすめです。

犬の脂漏症まとめ

なかなか治りにくく長期的に治療が必要となることの多い脂漏症。様々な原因があるとされていますが、愛犬にとっても飼い主さんにとってもストレスとなりやすい皮膚病です。

脂漏症の予防には、栄養バランスの良い食事と適度な運動、清潔な体と飼育環境が重要です。これらに気を付けてなるべく脂漏症から愛犬を遠ざけてあげてくださいね。

執筆者:竹内CoCo先生

経歴:大阪コミュニケーションアート専門学校ペットビジネス科ペットトリマーコース(現在の大阪ECO動物海洋専門学校)卒業。

ペットショップ勤務を経て、現役動物看護士。動物病院で勤務している立場から、「正しい知識を持ってペットと幸せに暮らしてもらいたい」という気持ちで正確な情報をお届けします。