執筆者:ナルセノゾミ先生
動物看護士、愛玩動物飼養管理士
目次
マラセチア外耳炎とは?
しきりに耳をかゆがっていたり、耳から悪臭がしている場合、それは外耳炎のサインかもしれません。
犬の外耳炎の原因のほとんどは「マラセチア菌」の増殖によるものと言われています。
マラセチア外耳炎の特徴と、再発させないためのポイントをご紹介します。
外耳炎の70~80%はマラセチア菌が原因
犬は外耳炎にかかりやすい動物ですが、その原因は「外傷」「ダニの寄生」「アレルギー」などさまざまですが、犬の外耳炎の70~80%はマラセチア菌が関わっていると言われています。
マラセチア菌とは、犬の皮膚や耳にもともと存在する常在菌で、普段は悪さをすることはありません。
しかし、何らかの原因によって、マラセチア菌が異常繁殖をすると、皮膚炎や外耳炎を引き起こすのです。
マラセチア外耳炎の症状
マラセチア外耳炎の症状は、耳の痒みや痛みだけでなく、「悪臭」「黒いベタベタした耳垢」がみられます。
また、次のような行動もマラセチア外耳炎が疑われます。
・耳を頻繁に振る・掻く
・耳を何かにこすりつける
・耳を触られるのを嫌がる
マラセチア外耳炎は痒みで満足に眠ることができなくなる場合もあり、犬にとって大きなストレスがかかります。
そのため、早期発見、早期治療することが大切です。
マラセチア外耳炎に隠れる基礎疾患の特定
マラセチア外耳炎の治療は、まずその原因を突き止める必要があります。
マラセチア菌は免疫力が低下している状態で異常繁殖します。
つまり「免疫力が低下している原因」があるということ。
原因はガンや内臓疾患だけでなく、食物アレルギーの症状としてマラセチア外耳炎が発症することもあります。
マラセチア菌が繁殖しやすい状態の原因となる病気の治療をしないことには、一時的に症状を抑えても再発を繰り返すことになります。
マラセチア外耳炎への対症療法としては、内服薬、外用薬でのかゆみ止め、抗真菌薬の投与や、点耳薬や洗浄などで繁殖したマラセチア菌(耳垢)を除去する処置が必要です。
症状が進むと耳を触られるだけで激しい痛みがあるため、まずは痛みを取り除いてから、正しい洗浄をして徐々にマラセチア菌の数を減らし、根気よく治療を続けることが大切です。
外耳炎を再発させないための3つのポイント
外耳炎は再発することが多く、アレルギー体質や基礎疾患がある場合は一生付き合うかもしれない病気です。
何度も外耳炎を繰り返すと、耳の皮膚が厚くなったり、固くなる二次症状が出る場合があります。
体質などにより完全に治すことが難しくても、再発しても軽い症状で抑えられるよう、飼い主さんでできるケアを行っていきましょう。
正しい耳掃除を行う
犬の耳掃除、実は綿棒を使ってはいけません。
綿棒での耳掃除は外耳道を傷つける恐れがあるため、かえって危険です。
正しい耳掃除は、次の通りです。
1、液体のイヤーローションを直接犬の耳に数滴落とし、耳の根元を揉みながら優しくマッサージし、奥の汚れを浮かせる
2、犬は耳に入った液体を出そうと頭を振るので、浮き出た汚れをコットンで優しくふき取る
耳掃除の頻度としては月に1~2回で十分です。
耳垢がたまりやすい場合は、犬がもともと持っている自浄機能が働いていないということですから、免疫が低下している可能性があります。
オメガ3脂肪酸を食事で与える
マラセチア菌は皮脂を好みますが、その皮脂の分泌を抑えるために効果的なのが、食事の改善です。
オメガ3脂肪酸と呼ばれる必須脂肪酸には、皮脂をコントロールするはたらきがあり、青魚や植物油に多く含まれています。
ドッグフードへの加工添加が難しい栄養素のため、食事から取り入れる必要があります。
飼い主さんが環境改善やケアをどんなに頑張っても、マラセチ外耳炎を繰り返すワンちゃんは多いです。
しかし、食事を改善したことで再発頻度が減った、または症状が軽くなったというケースはとても多いのです。
食事の見直しで皮脂の分泌をコントロールすることが、マラセチア外耳炎の再発を防ぐ近道になります。
生活環境の通気性を良くする
マラセチア菌に湿気はご法度。
繁殖しづらい環境をつくることも大切です。
春先や湿度の高い梅雨の時期は、マラセチア外耳炎が急増する季節です。
室内を清潔に保ち、一日1回は窓を開けて換気をするようにしましょう。
また、シャンプーのあとは、耳の中に湿気が残らないようにやさしくタオルドライでしっかりと乾かすことが大切です。
マラセチア外耳炎になりやすい犬の特徴
「飼い方に問題があるのかしら・・・」
「うちの子はどうして外耳炎を繰り返すの?」
外耳炎を繰り返していると、飼い主さんも滅入ってしまいますよね。
実は、マラセチア外耳炎になりやすいワンちゃんにはいくつかの特徴があります。
ワンちゃんに合わせて対処できることもありますが、「マラセチア外耳炎になりやすい」ということもあることを知っておきましょう。
子犬・老犬
成長途中の子犬や、年老いた老犬は免疫力が低い傾向にあります。
母犬の初乳(子犬が産まれて8時間以内の母乳)には、母犬の持つ免疫が含まれています。
この免疫により子犬はさまざまな病気から守られますが、離乳食が始まる生後2ヶ月頃までに消滅してしまいます。
そのため、免疫が消滅してから成犬になる生後2ヶ月~1歳前後までは、感染症などにかかりやすい時期と言えるのです。
また、年を取るにつれて身体機能の低下とともに免疫機能も弱くなるため、外耳炎をはじめとしたさまざまな病気にかかりやすくなります。
定期的な健康診断で体の不調がないかチェックするとともに、日頃から愛犬を観察しておくようにしましょう。
アレルギー体質
マラセチア菌の異常繁殖は、外耳炎だけでなく皮膚炎を引き起こす原因にもなります。
アレルギー体質であれば、本来持っている免疫機能ではマラセチア菌による感染を防ぐことが難しく、再発を繰り返すケースが多いです。
また、マラセチア菌そのものがアレルゲンになることもあります。
アレルギー体質が原因の場合は、マラセチア菌による外耳炎の完治は難しいため、再発の頻度や症状をコントロールすることを目指します。
垂れ耳、耳に毛が生えている犬種
マラセチア菌は湿気や脂質のある場所が大好き。
垂れ耳や耳に毛が生えている犬種も耳の通気性が悪くなりやすく、マラセチア菌が繁殖しやすい環境になります。
《耳の中に毛が生えている犬種》
・プードル
・ヨークシャーテリア
・マルチーズ
耳の中の毛は定期的に抜き、なるべく耳の中に湿気がたまらないように気を付けてあげましょう。
動物病院やトリミングサロンでは、耳掃除だけをワンコインで行ってくれるところもあります。
耳の中の毛も処理してるので、プロにお任せすると安心ですね。
皮膚が弱い、または皮脂が多い犬種
個体差はありますが、犬種によって「皮膚が弱い」「皮脂が多い」などの傾向があります。
《皮膚が弱い犬種》
・ブルドッグ
・レトリバー
・柴犬
《皮脂が多い犬種》
・パグ
・シーズー
・コッカースパニエル
持って生まれた体質を変えることはできませんが、食事などのバランスを整えることで体質を改善することは可能です。
日々の食事やシャンプーなどで工夫し、ワンちゃんの体質に合った工夫をしましょう。
逆効果!マラセチア外耳炎の間違った対処法
「耳垢」「臭い」という症状から、予防として徹底した衛生管理をしだす飼い主さんがいらっしゃいます。
間違った対処法をすると外耳炎を悪化させたり、再発のキッカケを作ってしまうこともありますので、安易な自己判断で対処をしないようにしましょう。
皮脂が多いから・・とシャンプーの頻度を上げる
マラセチア菌による皮膚炎や外耳炎を発症している場合、治療として薬用シャンプーを週2~3回行うことがあります。
治療でのシャンプーは抗真菌用のものが処方されますが、市販されている通常の犬用シャンプーを週に何度も行ってしまうと、必要な皮脂まで洗い流してしまい、かえって皮脂の分泌を促す原因となってしまいます。
皮脂は洗い流すだけでなく、分泌を抑えるためには食事面からコントロールするようにしましょう。
耳の清潔のために頻繁に耳掃除をする
マラセチア外耳炎では、ベタベタした耳垢や悪臭が発生します。
そのため、耳掃除を徹底する飼い主さんもいらっしゃいますが、実は耳掃除によって炎症を悪化させてしまうことが少なくありません。
特に、外耳炎を引き起こしている場合は、耳の中がよりデリケートな状態になっており、綿棒やイヤーローションが刺激となってしまうのです。
耳垢を除去すると、表面上はきれいになったように見えますが、目に見えないマラセチア菌は除去できていません。
ヒリヒリと患部が痛んだり、ワンちゃんにとって不快感を残してしまうこともあるので注意が必要です。
また、アレルギーや肌の弱いワンちゃんであれば、イヤークリーナー自体で耳の中が荒れることもありますので、かかりつけの獣医師に相談するようにしましょう。
外耳炎は悪化すると深刻化するケースも
犬は情報の3割を聴覚に頼っていると言われ、それだけ耳に支障がでるとストレスを感じてしまいます。
外耳炎は、放っておくと中耳炎、内耳炎と、どんどん耳の奥に症状が進行し、最悪の場合、耳が聞こえなくなってしまうことも。
マラセチア外耳炎は、症状に波が出ることはあっても自然治癒する可能性は極めて低いです。
発見が遅れると慢性化し、治りも遅くなります。
耳の状態で気になることがあれば、すぐに動物病院に連れて行きましょう。
マラセチア外耳炎まとめ
外耳炎の主な原因であるマラセチア菌は、根幹にある基礎疾患を治療しなければ再発を繰り返します。
免疫力が落ちている原因を突き止め、愛犬の体質に合わせたケアをしましょう。
早期発見のカギは飼い主さんが握っています。
愛犬の行動をよく観察し、耳の中や異常なにおいがないかチェックしておきましょう。
また、完治だけを目指すのではなく「症状を出にくくする」ところにフォーカスして、愛犬と二人三脚で対策をしていきましょう。
執筆者:ナルセノゾミ先生
動物看護士、愛玩動物飼養管理士
仙台総合ペット専門学校で、動物看護・アニマルセラピーについて学ぶ。
在学中は動物病院・ペットショップの他、動物園での実習も経験。
犬猫、小動物はもちろん、野生動物や昆虫まで、生粋の生き物オタク。
関わる動物たちを幸せにしたい、をモットーに活動しているWebライター。