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よくある皮膚病の代表「マラセチア皮膚炎」とは
執筆者:ナルセノゾミ先生
動物看護士、愛玩動物飼養管理士
マラセチア皮膚炎は、犬の皮膚にいるマラセチアという菌の一種が、何らかの理由で増えすぎて皮膚の炎症を引き起こす皮膚の病気です。
マラセチア皮膚炎は、犬によくある皮膚炎の一つとして知られていますが、マラセチア菌はカビの仲間なので、一度感染すると治りにくく、再発しやすい特性があります。
マラセチア皮膚炎そのものはよくある皮膚病で、命に関わる病気ではありませんが、免疫力が低下する原因となる基礎疾患が隠れている可能性があります。
「単なる皮膚病」と甘く見ずに必ず病院で検査する必要があります。
マラセチア皮膚炎の主な症状
マラセチア皮膚炎になると、強い痒みが生じます。そのため、しきりに体を掻くようになります。
皮膚が赤くなり、掻いたり噛んだりすることで出血してしまうこともあります。
マラセチア菌は皮脂を栄養分にして、さらに脂を分泌するため、異常繁殖を続けると皮膚上の脂が増えてベタベタしてきます。
フケが出たり、マラセチア菌特有の酵母のような独特の臭いがあることも。
体の痒みは犬にとって大きなストレスになり、夜も痒みで眠れず免疫低下に繋がることもあるため、体調を崩しやすくなってしまいます。
悪化すると皮膚炎の部位が脱毛したり、皮膚の色素沈着やウロコのように硬くなることがあります。
放っておいて良くなることはありませんので、しきりに体を掻く様子が見られたら動物病院に連れて行きましょう。
マラセチア皮膚炎の治療
マラセチア皮膚炎に対しては、内服薬や抗真菌剤の配合されたシャンプー療法などの治療が行われます。
かゆみ止めで症状を抑え、抗生物質でマラセチア菌を増やさないようにします。
さらに、皮膚上のマラセチア菌を洗い流すため、抗真菌シャンプーで週に2~3階のペースでシャンプーをします。
症状が深刻な場合は、初期段階でステロイドを使い、症状を抑えることもあります。
また、定期的な動物病院に通い、自宅での抗真菌シャンプーの必要があるため、治療には飼い主さんのサポートが重要になります。
マラセチア皮膚炎の治療期間
症状の度合いや状況によって個体差がありますが、マラセチア皮膚炎の治療期間は、約1ヶ月ほどかかるケースが多いです。
多くの場合、1~2週間前後で症状が改善されることが多いですが、症状が落ち着いているように見えても、皮膚上のマラセチア菌が多い場合は、すぐに再発してしまうことがあります。
そのため、定期的に皮膚検査をして、マラセチア菌が減ったことを確認して初めて、治療が完了します。
しかし、慢性化している場合や、アレルギーやその他の病気を抱えている場合などは、治療が長引くこともあります。
「症状が落ち着いたから」と勝手に通院を辞めると再発・慢性化に繋がることがありますので、獣医師の指示に従ってきちんと治療を続けましょう。
シーズーがマラセチア皮膚炎にかかりやすい理由
マラセチア皮膚炎は、犬種に限らず発症する可能性がありますが、中でもシーズーに多くみられます。
その理由として、シーズーの歴史が関係しています。
シーズーは中国原産の犬種で、長年、乾燥した寒い地域に適応して暮らしてきました。
そのため、四季により気候や湿度の変化のある日本の環境では、皮膚トラブルを抱えやすい面があります。
シーズーがマラセチア皮膚炎にかかりやすい理由をご紹介します。
皮脂分泌が多い
シーズーはもともと乾燥した地域で暮らしてきた犬種で、皮膚を守るために皮脂の分泌が多い特徴があります。
そのため、ジメジメした梅雨の時期には皮膚がベタベタしやすく、マラセチア菌が繁殖しやすい皮膚環境になってしまいます。
シーズーの持つ体質と、湿気の多い季節など環境的な要因によって、マラセチア菌に感染しやすくなるのです。
柔らかい被毛が密集して生えている
シーズーは、比較的寒さに強い犬種です。
毛量も多く、毛質は柔らかいということがシーズーの特徴です。
被毛が密集しているため、皮膚の通気性が悪くなることもあります。
犬の皮膚には汗腺はありませんが、皮脂は分泌されます。
毛量と皮脂の多さで、シーズーの皮膚はマラセチア菌の温床になりやすいのです。
マラセチア皮膚炎にかかりやすくなる要因
先述したシーズーだけでなく、マラセチア皮膚炎にかかりやすい犬種は他にもあります。
・トイプードル
・ダックスフンド
・柴犬
・ビーグル
・シェットランドシープドッグ など
しかし、これらの犬種に限らず、どんな犬種でもマラセチア皮膚炎にかかることはあります。
体質や基礎疾患など他の原因もありますが、マラセチア皮膚炎を引き起こしやすい要因を挙げていきます。
湿度が高い季節
マラセチア菌は、真菌であるカビの一種です。
カビは、ジメジメした場所を好みますよね。
マラセチア皮膚炎に感染したワンちゃんの来院が増えるのは、梅雨の季節がダントツで多く、この時期に再発してしまうワンちゃんも多くいます。
こまめに換気をしたり、ワンちゃんが使うクッションやベッドも、定期的に乾燥させるようにしましょう。
脂の多い食事
ドッグフードには、フードの劣化を防ぐ役割や、5大栄養素の一つである粗脂肪として脂が配合されています。
原材料の肉や魚にも、質の違う脂が含まれています。
食べ物から摂った脂が、皮脂の分泌を促進していることもあります。
ドッグフードを替えたり、手作り食で質の良い油を与えることで、みるみるうちに皮膚の状態が良くなった、というワンちゃんは多いです。
脂肪は犬にとって必要な栄養素ですが、体質に合わない油や、質の悪い油を食べ続けていると、皮膚や被毛の状態が悪くなることもあるんです。
病気や老化による免疫力の低下
マラセチア菌は、皮膚のバリア機能が働いていれば、簡単に増殖することはありません。
病気や老化によって免疫力が落ちると、当然皮膚のバリア機能も低下します。
免疫力を高めることで治癒力がアップし、マラセチア菌の増殖や感染を抑制することに繋がります。
ストレスを溜めさせないことや、サプリメントなどを使って栄養補給をしてあげることも大切ですね。
マラセチア皮膚炎を良くするコツ
マラセチア皮膚炎の治療時に使われる薬は、あくまでも症状を抑えることしかできません。
薬で症状が治まっても、マラセチア菌が再び増殖しやすい体そのものが変わっていなければ、再発してもおかしくありませんよね。
日々のスキンケア、掻いて傷つけないための工夫など、飼い主さんのケアがとても大切になります。
基本的なことばかりですが、次の4つのことを徹底して行うようにしましょう。
皮脂をしっかり落とす
マラセチア皮膚炎になると、皮膚が脂っぽく、フケが多くなります。
マラセチア菌の好物である皮脂をしっかり洗い流し、増殖を抑えることが大切です。
しかし、皮膚炎を起こしている状態で洗浄力の強いシャンプー剤を使うと、かえって炎症をひどくしてしまうこともあるので、皮膚に優しい抗菌成分の含まれたシャンプーを使いましょう。
動物病院では、マラセチア用のシャンプーとして、「マラセブ」というシャンプーがよく処方されます。
エリザベスカラー、犬用くつ下で掻き傷防止
犬は痒みをじっと我慢することが出来ません。
痒みがあると、その部分を舐めたり掻いたりして、結果的に皮膚炎が悪化してしまいます。
色素沈着や皮膚の硬化の原因になってしまうので、なるべく刺激を与えないようにすることが大切です。
かゆみを抑える薬で対処しつつ、炎症部位に刺激を与えないよう、エリザベスカラーや犬用くつ下で外傷を防止しましょう。
体から落ちた皮脂やフケはこまめに掃除を
マラセチア皮膚炎では、フケが大量に発生します。
生活スペースには当然そのフケが落ちるので、こまめに掃除をすることも大切です。
体から落ちたフケにもマラセチア菌がいるので、落ちたフケも除去し、マラセチア菌を可能な限り排除するようにしましょう。
適度な運動でストレス解消を
痒みなど体に不調があると、犬はストレスを感じます。
マラセチア皮膚炎の改善とストレスは、直接関係がないように思われますが、ストレスが溜まると体の免疫機能も低下し、皮膚炎が悪化するリスクがあります。
適度な運動はワンちゃんのストレスを解消し、多少の痒みなら意識を逸らすこともできるので、ワンちゃんが喜ぶ遊びをしてあげてくださいね。
「しつこいマラセチア皮膚炎が治った」ワンちゃんに共通することは体質改善
動物病院では、マラセチア皮膚炎を治療するための薬を処方したり、症状に合わせた処理を行います。
しかし、そうした対症療法だけで、マラセチア皮膚炎が順調に治った、というケースは実は多くありません。
少しずつ体質改善をして、自然治癒力を高めることが改善のカギになります。
マラセチア皮膚炎がすっかり良くなったワンちゃんの飼い主さんのお話を伺うと、共通しているのが以下の2つ。
・栄養面を見直す
・サプリメントを試す
「愛犬に合うものはないかと、いろいろと試した」という声が圧倒的に多いです。
動物病院で処方された薬やシャンプーをきちんと続けることも大切ですが、体の中から体質を変えることで、各段に改善スピードは早くなり、再発予防にも繋がります。
シーズーに多いマラセチア皮膚炎まとめ
マラセチア皮膚炎は、一度感染するとしつこく再発する特徴があります。
激しい痒みや皮膚のべたつき、フケの発生や独特の臭いなど、ワンちゃんだけでなく飼い主さんにとっての精神的な負担も大きいですよね。
特に、好発犬種と言われるシーズーなど、マラセチア皮膚炎になりやすい体質を持っている場合には、体の内側へのアプローチが非常に効果的です。
動物病院での治療はもちろん、皮膚の状態を良くする良質な脂肪を取り入れたり、免疫力を高めるサプリメントを試してみるといいと思います。
執筆者:ナルセノゾミ先生
動物看護士、愛玩動物飼養管理士
仙台総合ペット専門学校で、動物看護・アニマルセラピーについて学ぶ。
在学中は動物病院・ペットショップの他、動物園での実習も経験。
犬猫、小動物はもちろん、野生動物や昆虫まで、生粋の生き物オタク。
関わる動物たちを幸せにしたい、をモットーに活動しているWebライター。