犬のクッシング症候群の原因と脱毛などの症状、日常ケアのポイント【動物看護士執筆】

犬のクッシング症候群について

執筆者:竹内Coco先生

動物看護師、トリマー

クッシング症候群は、副腎皮質機能亢進症とも呼ばれる病気です。副腎は腎臓の近くに左右に一つずつあり、体内の電解質や糖質、脂質の代謝のバランスを調節するためにホルモンを分泌する役割を担っています。

クッシング症候群は、この副腎から分泌される副腎皮質ホルモンの一種であるコルチゾールが過剰に分泌されることで起こる内分泌疾患です。

ホルモンは体内のバランスを取るだけでなく、皮膚の健康を保つ役割も果たす重要なものです。ですからこのホルモン分泌に異常が起きると、皮膚炎を起こすことがあります。このように、内分泌疾患からくる皮膚病のことを内分泌性皮膚炎といい、クッシング症候群においてよく見られる脱毛や皮膚の乾燥はこれに当たります。

とはいえ、発症初期のころにはぐったりしたり食欲がなくなるわけでもなく、元気もあるので飼い主さんは気付かないことも多いでしょう。ですが、放置しておくと突然死するケースもある大変危険な病気です。

症状に当てはまる心当たりがある場合はなるべく早く動物病院を受診し、治療を開始することが望ましいでしょう。

症状

主な症状をご紹介します。

・水を多量に飲む、おしっこの量が増える

・腹部が膨れる

・左右対称の脱毛

・食欲、体重の増加

・筋肉の減少足腰が弱くなる

・元気がなくなる

・突然死

などが挙げられます。特に多飲多尿はクッシング症候群の初期症状でもあります。愛犬の水を飲む量が最近急に増えた、おしっこの量が増えたと感じるときには注意が必要です。

また、食欲が増加し、太ってくるのもクッシング症候群の特徴です。ですが、この時点では「最近食欲が旺盛だなぁ」、「太ってきたなぁ」と感じはしても、まさか病気だと疑う飼い主さんは少ないでしょう。腹部が膨れてきますが、よく食べるから肥満になったと考えてしまうことも少なくありません。

さらに、クッシング症候群を発症すると筋肉の減少が見られます。そのため足は弱り、細いのにお腹だけ異常に膨れているときには、やはりクッシング症候群を疑う必要があります。

また、皮膚に現れる症状としては、皮膚表面が乾燥し薄くなり左右対称の脱毛が見られます。全ての犬が脱毛するわけではありませんが、進行した症例では、約90%の犬に皮膚、被毛の病変が認められるとされています。

脱毛の程度は少量の場合もありますし、頭と四肢以外全て脱毛してしまう症例もあり個体差がありますが、痒みを伴わないことが特徴です。他の皮膚炎でも脱毛を伴うものはありますが、左右対称に起こる痒みのない脱毛は、クッシング症候群の重要な特徴であると言えます。

犬のクッシング症候群の原因

クッシング症候群の原因は、副腎から分泌されるコルチゾールが過剰であることによって起こる病気です。その過剰分泌の原因は3つに分けることができます。

下垂体性

コルチゾールを分泌するよう指令を出しているのは脳の下垂体と呼ばれる部分です。下垂体から分泌される副腎皮質を刺激するホルモン(副腎皮質刺激ホルモン)がコルチゾールの分泌を調整しています。

この下垂体になんらかの異常が起こることで、コルチゾールの分泌量が過剰になることがあります。異常の原因は主に下垂体の腫瘍です。腫瘍により副腎皮質刺激ホルモンが過剰に分泌されると、副腎はその刺激により肥大し、コルチゾールを必要以上に分泌します。

クッシング症候群の80%~90%はこの下垂体の異常によるものです。

副腎腫瘍性

残りの10~20%は副腎そのものの過形成や腫瘍によって、コルチゾールが過剰に分泌されるケースです。多くは片側性といい、左右にある副腎のどちらか一方に見られます。

医原性

医原性とは、治療のための薬剤が原因となるものです。

皮膚疾患やガンの治療などにステロイド薬(副腎皮質ホルモン剤)を使用することがあります。これらの治療は長期に及ぶことが多く、副腎皮質ホルモンであるステロイド薬を長期的に服用することで、クッシング症候群と同じ症状を発症してしまう場合があります。

また投薬を急に止めた場合も同じことが起こる可能性があるので注意が必要です。

クッシング症候群になりやすい犬種

比較的どのような犬種にも起こり得る病気ですが、一般的に多いとされているのが以下の犬種です。

・プードル

・ボクサー

・ボストンテリア

・ポメラニアン

・ダックスフンド

・ビーグル

・シュナウザー

若齢での発症は比較的少なく、5歳以上の中・高齢犬で多く見られる病気で、平均年齢は8歳程度です。また、性別では若干ですが、オスよりメスのほうが発症しやすいとされています。

クッシング症候群の治療方法

診断

クッシング症候群は症状や、皮膚状態などからおおよそ診断が可能な病気です。ですが、確定診断を行うためには、血液検査によって血中のコルチゾールを測定することが必要になります。

さらに、副腎の左右の大きさを確認するため、超音波検査も行われます。また、クッシング症候群では水を多く飲み、おしっこの量が増えるので薄いおしっこになりがちです。そのため、尿検査も同時に行われることがあります。

これら複数の検査により、クッシング症候群と確定されると、次は原因を探っていきます。先程ご紹介したように、下垂体によるものか副腎の腫瘍によるものかにより治療法も多少変わってくるので、原因を突き止めることも重要です。

腫瘍の確定や、脳の中を見ることはレントゲンや超音波検査ではできませんので、MRIやCTといった画像診断が行われます。

治療

  • 内科的治療

画像診断により、原因が下垂体にある腫瘍によるものだとわかった場合には、内科的治療が行われることが多いでしょう。下垂体に腫瘍が見つかったとしても、脳の中の腫瘍を取り除く手術は非常に難しいのが実状です。

そのようなケースでは、副腎の機能を低下させたり、コルチゾールの分泌を抑えたりする内服薬による治療が行われます。ただし、根本的な腫瘍はなくなっていませんので、投薬は一生涯に渡るでしょう。

腫瘍が小さく、うまくコルチゾールをコントロールできれば寿命を全うすることも可能です。

  • 外科的治療

手術により腫瘍を取り除く治療法です。下垂体の腫瘍は手術によって取り除くことが難しいため、副腎そのものに腫瘍が見つかったときに外科的手術による治療が行われます。

・放射線治療

ガンの治療法に放射線治療があります。放射線によってガン細胞を破壊する治療法ですが、

脳の下垂体腫瘍で外科手術が難しい場合に適用されることもあります。

ただし日本では動物の放射線治療を行える病院は数少なく、定期的に複数回受けなければいけないこと、また多額の費用がかかるとして行われる例は多くありません。

  • ステロイド薬の減薬

ステロイド薬の投与による医原性の場合には、投与しているステロイドを徐々に減らしていく治療が行われます。2~3ヶ月かけて減らしていき、全廃していく方法が取られます。

クッシング症候群のときに気をつけたいこと

コルチゾールの低下による体調不良

副腎の機能を低下させ、コルチゾールの分泌を抑える内服薬の投薬を行っている場合には、逆に低下しすぎてしまうケースに注意が必要です。

副腎の機能が低下しすぎたりコルチゾールの量が減少しすぎたりすると、食欲不振・下痢・嘔吐などを起こすことがあります。投薬を始めたときにはこのような症状が出ていないか、よく愛犬を観察する必要があり、異常があった場合にはすぐに獣医師の診察を受けましょう。

他の病気の併発に注意する

クッシング症候群が進行すると免疫力が低下します。そのため膀胱炎や皮膚炎などの感染症の病気にかかりやすくなってしまいます。衛生面や、他の犬との接触には十分注意してあげましょう。

また、ホルモンバランスの崩れから、血糖値が上がりすぎて糖尿病を併発するケースも多いとされています。

飲み水は切らさない

クッシング症候群になると水を飲む量が非常に多くなります。そのため気付いたら水の容器が空になっていることも多いはず。併発しやすい膀胱炎は、飲水量が少ない、トイレを我慢することなどが原因となります。

愛犬がいつでも新鮮な水を飲めるよう、たっぷりの水を用意しておいてあげましょう。

クッシング症候群の予防と日常ケアのポイント

残念ながらクッシング症候群は、主に腫瘍が原因となっているので、予防法はありません。

また、直接命に関わる症状は現れませんが、放置すると症状は進行し、突然死のリスクもある病気です。そのため早期発見、早期治療が大切。

日常では、次にご紹介する3つのポイントに気を付けあげましょう。

愛犬の様子をよく観察する

初期症状はよく食べたり、よく水を飲んだりと非常に分かりにくい病気です。太ってきても食べすぎによる肥満だと思いがち。ですがなんとなく気になるその症状、もしかしたらクッシング症候群の初期症状かもしれません。

日頃一緒に生活している飼い主さんだからこそわかる些細な変化。しっかりと愛犬の様子を確認してあげましょう。

特に飲水量は大きな目安となります。一般的な犬の飲水量は体重1kgあたりせいぜい60CC程度とされています。ですが、クッシング症候群を発症すると、飲水量は急激に増加。体重1kgあたり100CC以上を飲むことが多いでしょう。

愛犬が最近よく水を飲むと感じたら、1日の飲水量を測ってみることも大切です。また、食事の量も毎日決まった量を与えることで、体重の増加が食べすぎによるものか病気によるものかの判断の目安となるでしょう。

勝手に薬を休止しない

皮膚病などでステロイド薬が処方されている場合、先程もお伝えしたように突然休薬するとクッシング症候群のきっかけとなってしまうことがあります。ステロイド薬を飲むと一時的に、すっかり皮膚状態が落ち着くこともあります。ですがそこで勝手な判断で休薬することは大変危険です。

かならず処方されている薬は獣医師の指示にしたがって減薬、休薬してくださいね。

免疫力を上げる

クッシング症候群が進行すると免疫力が低下します。また、発症しやすい高齢犬になると自然と免疫力は落ちてくるもの。

免疫力が低下すると、他にも様々な病気にかかりやすくなってしまいます。適度な運動、バランスの取れた食事、ストレスのない生活を心掛け、病気に負けない体力をつけてあげましょう。

また、免疫力を高めるサプリメントなども効果的です。キングアガリクスは、内側から免疫力を高めてくれる、高品質なサプリメント。人が食べても安全なもので、薬とは違い長期的に与えてあげることができます。

普段から愛犬の健康に関心を持ち、特にシニア期に入るころには免疫力の低下を防いであげることが、病気を遠ざける大切なポイントになるでしょう。

執筆者:竹内CoCo先生

経歴:大阪コミュニケーションアート専門学校ペットビジネス科ペットトリマーコース(現在の大阪ECO動物海洋専門学校)卒業。

ペットショップ勤務を経て、現役動物看護士。動物病院で勤務している立場から、「正しい知識を持ってペットと幸せに暮らしてもらいたい」という気持ちで正確な情報をお届けします。