犬の抜け毛(脱毛症)の原因、治療、対策【メディカルトリマー執筆】

犬の抜け毛(脱毛症)の原因、治療、対策

愛玩動物飼養管理士、メディカルトリマー

青山ケンネルスクール認定 A級トリマー

大谷幸代先生

犬の抜け毛(脱毛症)について

犬の脱毛症

愛犬の原因不明の脱毛にお悩みの飼い主さんが実は非常にたくさんいます。動物病院を受診しても原因がわからない、薬を飲ませてもなかなか完治しない、病的な症状かどうかの判断が難しいとお悩みの内容も様々です。ここでは、愛犬の脱毛に比較的多く見られるケースを御説明させていただきます。

アレルギーによる抜け毛(脱毛)

柴犬やコーギー、シェルティ、ポメラニアンなど被毛が表面の長い被毛と根元の綿毛状の短い被毛の2重構造で出来ている犬の場合、一年を通じて常に抜け毛が多いと感じるものでしょう。

健康な毛の抜け方

健康な状態の犬の抜け毛は、抜けた被毛が一本一本バラバラの状態で抜け落ちます。

病的な理由がある毛の抜け方

一方で何らかの病的な理由があり抜け落ちる場合は、以下のような特長があります。

〇数本が束になって抜けている

〇抜け毛の先端に毛根の名残が残っている

〇体の特定の場所だけが集中して抜ける(円形脱毛症の状態になる)

〇飼い主が軽くひっぱっただけで、簡単に大量に抜ける

中にはかゆみや湿疹を伴わずに、抜け毛だけが起こる症状もあります。

このような症状の主な原因はアレルギーが考えられます。

アレルギーの原因

アレルギーの原因は様々です

〇食事

〇生活環境(ノミ、マダニなど)

〇金属製食器や首輪の金具

〇防虫スプレー

〇除草剤

症状の表れ方もそれぞれの体質によって異なります。

アレルギーと聞くと食事療法、ドッグフードの切り替えで対処をと考えがちですが、むやみにドッグフードを切り替えてしまうと愛犬を混乱させてしまったり、対処が遅れてしまう原因にもなります。

愛犬の脱毛が目立つ場合は、動物病院を受診し血液検査を受け原因を突き止めたうえで、適切な対処をしてあげましょう。

アレルギーによる脱毛の場合、治療方法はあくまでも症状の緩和処置です。アレルギーを完全に抑える薬や脱毛部位の発毛を促進する薬はありません。時間はかかりますが、原因を突き止め、体質を改善しゆっくりと治療に取り組んであげましょう。

アレルギーが原因の脱毛の場合、かゆみを伴うことも多々あります。この場合脱毛で皮膚がむき出しになった部分を強く掻きこわすと傷口が出来、可能してしまうこともあるので、日ごろから爪を短く切っておくこと、体を清潔に保ってあげること、かゆみが酷い場合は洋服やサポーターを活用して傷口の保護をしてあげましょう。

カビや寄生虫などの病気による脱毛

アレルギーによく似た症状に真菌(カビ)やアカラス(寄生虫)による脱毛症状があります。

この症状は強いかゆみを伴い、体の至るところに円形状の脱毛部位が出来たり、被毛が大量に束上で抜け落ちます。この症状をアレルギーと勘違いしてしまい、食事療法をとったり、自然治癒を目指すことは効果がありません。

この症状は動物病院を受診し飲み薬の処方を受ける事、殺菌効果のあるシャンプーで週に1,2度洗ってあげる事で早期に完治する事が出来ます。

愛犬の抜け毛が気になる時は、まず抜け毛の形状を確認し病的な抜け毛の場合はすぐに動物病院を受診してあげましょう。

ホルモン異常による脱毛

ペットの飼育方法の一つに生後半年を目処に避妊、去勢手術をする事が推奨されています。この時期は誕生後初の発情を向かえる前という時期が目安になっています。まだ体が未成熟の状態で生殖機能を取り除くことで、その後の発育やホルモンバランスへの影響が少ないとされているからです。

しかし、犬の発育にはそれぞれ個体差があり、小型犬の場合生後半年ですでに体の発育を終えている場合もあります。

中には成長途中に生殖機能を取り除くことで、体の内部で変調がおき原因不明の脱毛が起こる事もあります。ホルモンバランスの不調による脱毛は、かゆみを伴わずに短期間で大量に抜け落ちる事が多く見られます。

体の一部だけ被毛が薄くなり、地肌が見える程になることもあれば、全身の被毛が抜けてしまうこともあります。また、一旦抜けてしまった部分の被毛が再度生え揃うことがなく、産毛のような細く短い被毛だけが生え揃うことも少なくありません。

このような症状は、一時的に強い薬を投薬したり、ホルモン剤を投与する事で多少の改善がみられることもありますが、完全に元の状態に戻すことは難しいでしょう。

同じ症状は出産経験のあるメス犬が高齢になった時にも度々見られます。症状の発症時期にもバラツキがあり、避妊手術の直後に起こる事もあれば、数年経過してから起こる事もあります。

ホルモンバランスの不調を原因とする脱毛の場合、安易に強い薬を多用するのではなく、動物病院でしっかりと相談し、愛犬の健康を第一に考え症状の緩和策を考えてあげましょう。

皮膚・毛並みがキレイになったミルクちゃん

犬の治療例

(飼い主様から頂いた声をご紹介します)

ミルクは7歳になるチワワの女の子です。

元々多頭飼いの予定もなかったので、健康な体を手術するのはと考え、避妊手術を受けずにいました。若い頃はなんの不調のなく過ごしていましたが、シニアを呼ばれる時期に近づくにつれ、次第に全身の被毛が薄くなり、薄く地肌が見えるようになってきてしまいました。ただかゆみもなく、ノミダニの予防も毎年欠かさずに行っているので、これといった治療方法もなくという状態です。

次第に薄くなる被毛はドッグフードを切り替えたり、サプリメントをトッピングしてもなかなか改善されずに、次第に進行するばかりです。あまりに症状が進行し、体の所どころは完全に被毛が無くなってしまう程です。

そこで動物病院に相談したところ、避妊手術をしない上に、出産経験もないままで成長をすると、高齢になってからホルモンバランスが乱れ、このような症状が出る事もあるという説明を受けました。もちろんすべてのメスが該当するわけではなく症状の度合いも個体差があるそうです。

ミルクはもう7歳です。このタイミングでどのような方法がベストなのか相談したところ、避妊手術をする事も改善策であると提案を受けました。特効薬はないので、手術後の経過は想像できないというリスクはあったものの、今後子宮に関係する病気を予防出来る事が何よりのメリットと考え、思い切って手術を受けました。

手術をした後は、出来る限り皮膚の新陳代謝をあげるように家の中では洋服を着せない事、天気のいい日は出来るかぎり日光を浴びる事が出来るようにと心がけ、次第にうっすらとですが産毛も生えそろってきています。

シニアなので回復に時間はかかりますが、ミルクなりに改善を目指せたらと思っています。

犬の脱け毛(脱毛症)が目立つ時の家庭でのケア

犬の抜け毛ケア

病的な理由や体調不良、加齢を原因とする脱毛症、抜け毛に悩む場合の家庭でのケアは、便利なアイテムの細やかな使い分けが必要です。

①寒さ対策には洋服を着せてあげましょう

犬の服

本来あるはずの被毛が無くなってしまうという事は、愛犬にとって相当な負担になっています。伸縮性のある動きやすい素材の洋服を用意し、適度に着せてあげましょう。

②日光浴も大切です

犬 日光浴

脱毛があり外見が気になると、つい散歩や外出の時も洋服を着せたままになりがちです。

でも、適度な日光浴は皮膚に刺激をあたえ、皮膚表面を健康にしてくれる効果があります。

もちろん自宅の窓辺で日光浴をするのも効果的です。ぜひ洋服を小まめに着脱させ、自然の力を存分に活用してあげましょう。

③シャンプーは低温、短時間がおすすめです

犬 シャンプー

皮膚に何らかの理由でかゆみがある場合のシャンプーは、ぬるめのお湯で短時間に済ませてあげましょう。シャンプーやリンスはすすぎ残しの無いようにしっかりと洗い流します。タオルは皮膚表面をこすらないように、軽く押し当て水分を吸い取るように使います。ドライヤーも極力短時間、低めの温度設定で使用します。

かゆみがある犬にとってシャンプーやドライヤーの熱で血行が過剰に促進されると、かゆみが増してしまいますます負担が掛かります。シャンプー直後に体を強く掻く、壁や床にこすり付ける事もあります。この時、怪我になるほど掻いてしまうこともあるので、極力負担を軽減してあげる必要があります。

脱け毛が気になるときは動物病院に

犬 受診

犬の脱毛には様々な原因があり、なかなか特定が難しいとされています。気になる脱毛が見つかった時は早期に動物病院を受診し、負担を軽減してあげられる方法を見つけてあげましょう。


執筆者

トリマーさん

【大谷幸代先生】

愛玩動物飼養管理士

青山ケンネルスクール認定 A級トリマー メディカルトリマー

学生時代にイギリスへドッグトレーニングの勉強のため、短期留学。その後、ペットショップ販売員、トリマー、ドッグトレーナー、ペットシッターなど様々な仕事を経験してきた。ホリスティックケアアドバイザーや日本アロマテラピー協会認定アロマテラピーインストラクターなどの資格も取得。ペット関連用品の開発、雑誌などへのコラム執筆を手がけるなど、【犬を飼う生活から、犬と暮らす生活へ】の実現をめざし、幅広く活躍している。