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犬の毛包炎について
執筆者:ramoup先生
認定動物看護師・JKC認定トリマー
あなたは毛包炎という言葉を聞いたことがありますか?毛包炎とは、表皮や毛包(毛穴)の中で細菌が繁殖し、炎症を起こした状態のことです。毛包炎は犬の皮膚病である「膿皮症」のひとつの状態を表すものであって、病名ではありません。
なお、膿皮症は症状の発生部位や症状の進行度合いによって、呼び方が変わります。一般的に「毛包炎」と呼ばれているのは、毛包内のみに炎症がある膿皮症「表層性細菌性毛包炎」のこと。
犬では1番多い皮膚病で、お腹や背中に脱毛やフケ、赤いブツブツなどがみられるようになります。痒みがあるので、犬が掻くことによって脱毛箇所が増えやすい病気といえますね。
犬の毛包炎の原因
毛包炎を引き起こす細菌は色々とありますが、実はその90%はブドウ球菌です。ブドウ球菌は犬の皮膚の常在菌なので、普段は特に悪さもせず、ひっそりと存在しています。
それなのに、いったいどうして毛包炎が起こってしまうのでしょうか?
○傷口からの細菌感染
体を掻いているうちに傷が出来てしまい、そこから爪を介してブドウ球菌が侵入します。たとえ見た目には気付かないほど小さな傷でも、ブドウ球菌は十分侵入できてしまうのです。
○間違ったお手入れによる毛穴の傷害
毛の方向に逆らったシャンプーやブラッシングは、犬の毛穴を傷つけることがあります。犬の毛は頭側から尾側に向かって生えているので、逆方向に皮膚をこすると毛穴が傷ついてしまうのです。毛穴の傷害は人間でいうかみそり負けのようなもので、毛穴の中で毛が激しく動くと起こります。
特にフレンチブルドッグやシュナウザーなど太くて硬い毛を持つ犬種は、要注意。柔らかい毛の犬と違って毛自体の強度が高いので、毛を包む毛穴が傷つきやすいといえます。
○免疫力の低下
常在菌の数は普段ほどよく保たれていますが、免疫力が低下すると一気に繁殖を始めます。加齢や栄養不良など何らかの原因で免疫力が下がってしまうことで、ブドウ球菌が異常繁殖してしまうのです。
増えすぎたブドウ球菌は皮膚をはじめ、犬の体の様々な場所で悪さをし始めるようになります。
○甲状腺機能低下症など、その他の疾患
皮膚バリアが低下することで、皮膚が細菌感染を起こしやすくなります。毛包炎を引き起こす主な病気としては、甲状腺機能低下症やクッシング症候群、脂漏症など。
また、アトピーやノミなど様々な病気によって、犬の皮膚バリアは低下します。
○高温多湿や不衛生な環境
高温多湿や不衛生な環境では、様々な細菌が繁殖しやすくなります。そのため、気温が高くなる春・夏では、膿皮症および毛包炎の発症率が高いのです。
毛包炎になりやすい犬種
毛包炎(膿皮症)は犬の皮膚病で1番多い病気であり、どんな犬でも発症します。性別や年齢に関わらず発症リスクは高いので、まだ若いからといって安心してはいけません。特に注意が必要な犬としては、以下のような犬種があげられます。
・長毛種:シェルティー、ゴールデンレトリーバー、バーニーズマウンテンドッグなど
・アレルギー体質の犬種:柴犬、シーズー、ウェスティ、ダックスフント、トイプードル、マルチーズなど
・毛が短くて硬い犬種:ブルドッグ、ボストン・テリア、ピンシャー、シュナウザー、ジャックラッセルテリアなど
・顔にしわが多い犬種:フレンチ・ブルドッグ、パグ、シャーペイ、チャウチャウ、狆(ちん)など
毛包炎の治療方法
毛包炎の治療方法としては、以下の4つがあげられます。毛包炎ではひとつの治療を集中して行うことは少なく、ほとんどの場合は並行して行われます。
①飲み薬(内服薬)
毛包炎を完治させるためには、少なくとも3週間は抗生物質を服用する必要があります。症状が消えたからといって短期間で投薬をやめてしまうと、毛包炎は簡単に再発してしまいます。
また、間違ったタイミングで服用をやめたことで薬剤耐性菌が生まれてしまい、治療が困難になることも。最短で毛包炎を治すためには、何よりも獣医師の指示した投薬方法を守ることが大切ですよ。
②塗り薬(外用薬)
赤いブツブツや脱毛部位が狭い場合は、抗菌作用のあるクリームを塗って治療します。塗り薬は体への影響が少ないので、子犬やシニア犬でも副作用の心配なく使うことができます。薬を塗る時は患部をキレイにしてから行うようにすると、より効果が発揮されやすくなります。
③薬浴・シャンプー
毛包炎の治療では、クロルヘキシジンやヨウ素を使った薬浴が効果的です。方法としては、人肌程度のゆるま湯にこれらの薬液を入れ、10~15分ほど患部をひたすこと。痒みや痛みを和らげる効果もあるので、愛犬のストレスを軽減することにもつながります。
また、薬用成分配合のシャンプーを使って体を洗うことで、増殖したブドウ球菌の数を減らすことができます。頻繁に洗いすぎるとかえって皮膚に良くないので、シャンプーの頻度は獣医師の指示に従ってください。
④その他の病気の治療
ノミダニなど寄生虫の駆除や他の病気を治療することで、毛包炎の再発を防止します。毛包炎が起きた理由が分からない場合はもちろん、再発を繰り返す場合には基礎疾患を疑うのです。毛包炎の治療と並行して他の疾患の治療を行うことで、再発のリスクを下げることができます。
毛包炎の時に気を付けたいこと
毛包炎は犬同士うつる病気ではないので、感染予防は必要ありません。もし愛犬が毛包炎になってしまったら、皮膚にできるだけ刺激を与えないように注意しましょう。例えば、日差しの強い日は外出を控えたり、犬が掻いて状態が悪化しないように靴下をはかせたり。
界面活性剤は皮膚に良くないので、犬用ベッドを洗う時などは天然由来の洗剤を使いましょう。
また、毛穴の傷害が原因で毛包炎になってしまった時は、お手入れの仕方を改めることが重要です。毛包炎の治療では薬浴を行うことも多いので、正しいシャンプーの仕方を知っておいてくださいね!
以下に、犬の体を洗う時の正しい方法と気を付けたいポイントをまとめてみました。
【正しい犬の洗い方】
①全身をまんべんなく濡らしておく
初めのすすぎでどれだけ汚れが落とせるかによって、シャンプーの泡立ちは変わってきます。まずは愛犬がびっくりしないよう水流を落とし、シャワーヘッドを体に沿わせるようにして濡らしてください。
なお小型犬の場合は、大きめの桶やたらいなどに張ったお湯の中にいれてあげてもよいでしょう。すすぎの段階で皮膚と毛にしっかりと水を含ませておくことで、シャンプーが楽になります。
②シャンプーは泡立ててから皮膚に乗せる
どんなに低刺激性のシャンプーであっても、少なからず犬の皮膚には刺激があります。毛包炎の犬の皮膚は特に負担がかかりやすいので、シャンプーは泡立ててから使うこと。スポンジや風呂桶などであらかじめ泡立てておき、その泡を使って体の汚れを落としていきます。
なお、洗う時はできるだけ毛の生えている方向に逆らわないようにしてくださいね。毛の流れに沿った洗浄は泡立ちこそ悪いですが、毛穴の傷害を防ぐために欠かせないポイントです。長時間のシャンプーは犬にとって大きな負担がかかるので、10~15分くらいが目安です。
③シャンプー後のすすぎは念入りに
体にシャンプー液が残ってしまうと、かえって皮膚の状態が悪くなってしまいます。シャンプー後のすすぎは特に入念に行い、指の間やお尻周りまでしっかりと流しましょう。
④吸水性の良いタオルでしっかりとタオルドライ
しっかりとすすいだ後は、吸水性の良いタオルで水分を吸い取っていきます。まずは犬にブルブルしてもらい、こするのではなく押し当てるようなイメージで水を拭き取りましょう。
犬の大きさにもよりますが、タオルドライのタオルは3枚ほど用意しておくと良いですよ。フレンチ・ブルドッグなど短毛種の犬でも、しっかり体を拭くなら3枚程度は必要になります。なお、タオルドライ後は体に保湿液を付け、皮膚が乾燥しないようにしてください。
⑤ドライヤーは低温に設定すること
ドライヤーは低温に設定し、皮膚から30cm以上離れた位置から風を当てるようにします。長毛や毛量が多い犬種の場合、どうしてもドライヤーの時間が長くなりがちです。特にダブルコートの犬は毛が乾きづらいため、完全に乾かすにはかなりの時間がかかるでしょう。
ですが、早く乾かしたいからといって高温で勢いよくドライヤーを当ててしまうのは絶対にNG。せっかくブドウ球菌を減らすことができたのに、これでは愛犬の皮膚バリアが更に壊れてしまいますよね。これまでの努力を無駄にしないためにも、ドライヤーは気長にじっくり取り組んでください。
犬の毛包炎のまとめ
毛包炎にならないために、予防や日頃のケアのポイント4つ
毛包炎にならないためには、ブドウ球菌が繁殖しづらい環境を作ることが大切です。痒みや脱毛が起こる毛包炎は犬にとってつらい病気なので、普段から適切な予防を心がけましょう。
①適切なシャンプーとブラッシング
シャンプーやブラッシングなど日常のケアを定期的に行い、皮膚を清潔に保ちましょう。犬種や体質によっても違いますが、シャンプーは月に1~2回、ブラッシングは3日に1回程度が目安です。間違ったお手入れで皮膚バリアが壊れてしまわないように、正しい方法でケアしてあげてください。
また、夏場は皮膚が蒸れやすいので、長毛種では被毛を短くカットするのもおすすめです。短くカットしすぎると紫外線が直接肌に当たって良くないので、3~5mmは残すようにしてくださいね。
②栄養バランスの整った食事を選ぶ
食事は健康の基本ですから、栄養バランスの整ったフード選びはとても大切です。愛犬のライフステージに合ったドッグフードを選んで、愛犬の免疫力を正常に保ちましょう。水分摂取は皮膚の潤いを維持するために必要不可欠なので、ウェットフードの併用もおすすめです。
③適度な運動とスキンシップでストレス解消
ストレスは様々な病気の原因になるので、できるだけ発散できる機会を作ることが大切です。週に1回はドッグランで思いっきり走ったり、いつもと違う散歩コースを歩いてみるのも良いですね。運動が苦手なら自宅で知育玩具を使ったスキンシップを取るなど、色々と工夫してみましょう。
④免疫力を高めるサプリメントを摂取する
どんなに気を付けていても、愛犬の免疫力は加齢と共に衰えていきます。もともと犬は皮膚のバリア機能が弱いので、皮膚病は体の内側から予防する方法が効率的。ぜひ元気な時からサプリメントで免疫力を維持しておき、病気に負けない体作りを心がけましょう!
参考
皮膚が弱いフレンチ・ブルドッグの洗い方|ペットのひふ科
https://magazine.vdt.co.jp/2181/
執筆者:ramoup先生
経歴:ヤマザキ動物看護大学卒業。認定動物看護師・JKC認定トリマー。
動物病院勤務で培った知識・経験を活かし、「病気に関する情報を分かりやすく」お届けします。愛犬・愛猫の病気について、飼い主様がより理解を深める際のお手伝いができれば嬉しいです。