治りにくい犬のアトピー性皮膚炎の原因・症状、間違えやすいスキンケア【小動物看護士執筆】

犬のアトピー性皮膚炎とは?

執筆者:nicosuke-pko先生

小動物看護士

犬のアトピー性皮膚炎

動物病院で診察を受ける皮膚疾患の中で、最も多いと言われているのが犬のアトピー性皮膚炎です。そのため、犬のスキンケアについては、アトピー性皮膚炎を中心に研究が進められてきました。

しかし、アトピー性皮膚炎は単独で発症するだけではなく、他の皮膚トラブルと併発して起こることが多いため、単純な治療やスキンケアで対処することができません。今回は、犬のアトピー性皮膚炎について説明します。

皮膚の働きとアレルギーについて

皮膚には『皮膚バリア機能』という重要な役割があります。これは、体外からの異物の侵入を防ぎ、体内から必要なものが漏出しないように防ぐという機能です。皮膚バリア機能で重要な表皮の最も外側には、強靭な角質細胞が集まった角質層があります。

角質層は、角質細胞間脂質が角質細胞をしっかりと結合することで、皮膚バリア機能の要を担っています。角質細胞間脂質は、セラミド、コレステロールエステル、遊離脂肪酸などで、特に大きな割合を占めているのが水分保持能力の高いセラミドです。

アレルギーとは、環境に存在するさまざまな物質に対して、体を守るための免疫機構が過剰な反応を起こすことで起きる反応のことです。アレルギーを起こす原因物質をアレルゲンといい、その種類によってアレルギーは以下の3つに分類できます。

・アトピー性皮膚炎

空気中に浮遊する環境アレルゲンを吸入することでアレルギー性皮膚炎を発症する

・食物アレルギー

食物に含まれている成分に対するアレルギーで、皮膚症状の他に慢性的な下痢などの症状も現れることがある

・ノミアレルギー性皮膚炎

ノミの唾液に対するアレルギー。

アトピー性皮膚炎の犬は、正常な犬よりもセラミドの量が少なく、皮膚バリア機能が弱いことが分かっています。そのため、環境アレルゲンが侵入しやすく、その症状に大きく影響するのです。

また、同時に食物アレルギーを持っている場合が少なくありません。したがって、アトピー性皮膚炎だけなのか、食物アレルギーも併発しているのかについて、しっかりと見極めた上でケアしていくことが大切です。

犬のアトピー性皮膚炎の症状

アトピー性皮膚炎や食物アレルギーの症状はとてもよく似ています。ここでは、その症状について、説明していきます。

皮膚の症状

アトピー性皮膚炎や食物アレルギーは、一般的にかゆみを伴います。制止しても治らないほど強くて持続的なかゆみではありませんが、かゆくて眠れないとか、散歩や食事の最中でもかゆみが出てくるので、生活の質を落とすレベルのかゆみといえます。何より特徴的なのは、アレルゲンが侵入するとまずかゆみが発生するということです。

かゆみのために犬が引っ掻くとその部位が赤くなり、やがてブツブツとした発疹ができます。そして、掻き続けると脱毛し、皮膚がえぐれ、カサブタができ、ゴワゴワになって、皮膚が黒く変色していきます。

皮膚が赤く発疹がある状態は初期段階、皮膚がゴワゴワになったり黒く変色したりしている状態は慢性化してしまった段階といえます。ただし、掻かなければ発疹が形成されにくいため、初期の段階でかゆみを止めることができれば、症状が良くなっていきます。

また、皮膚バリア機能が低いために乾燥気味である場合はカサカサとしたフケが、脂漏症を併発している場合はベタベタとしたフケが出てきます。

皮膚の症状が出やすい箇所

アトピー性皮膚炎の場合も食物アレルギーの場合も、皮膚の症状は左右対称に発症するのが一般的です。共通して症状が出やすい部位は、皮膚が薄い部分や皮膚と皮膚が重なっている部分、体のお腹側で、具体的に言うと、目、鼻、口周り、耳、首の内側、胸からお腹にかけてのお腹側、脇、股、足先です。

特にアトピー性皮膚炎の場合に出やすいのは顔と足先で、食物アレルギーの場合はお腹です。また、食物アレルギーの場合は症状が出る可能性があるものの、アトピー性皮膚炎では出にくい箇所が背中です。

ただし、例外的にウエスト・ハイランド・ホワイト・テリアはアトピー性皮膚炎でも背中に出る場合があります。また、食物アレルギーの場合はお尻周りにかゆみが生じることも多いです。

その他の症状

アトピー性皮膚炎や食物アレルギーの場合、かなりの確率で外耳炎を併発します。皮膚の症状と同様に、左右対称に発症します。具体的な症状は、耳が赤くなり、耳垢が多くなり、耳の中が臭くなります。また、外耳炎もかゆみを伴いますので、耳の後ろ側など、耳の周囲の皮膚にも症状が出やすくなります。

また、アトピー性皮膚炎の場合、結膜炎が生じて涙や目ヤニが多くなる場合もあります。目の周囲のかゆみのために犬が目の周りを掻き続け、その刺激で目にトラブルが生じる場合もあり、注意が必要です。

さらに、食物アレルギーの場合には、消化器系の症状が発生する場合もあります。具体的には、嘔吐、便の異常(ゆるい便が出る、1日4回以上の排便等)です。

犬のアトピー性皮膚炎の原因

アトピー性皮膚炎の原因や悪化要因についてみていきましょう。

遺伝

アトピー性皮膚炎は、環境アレルゲンに対して過剰に反応する免疫機構を持っているために発症します。またアトピー性皮膚炎の犬は、角質層の構造に異常があり、皮膚バリア機能が弱いことも分かっています。これらは、遺伝的な要因が背景にあり、親から子へと受け継がれていきます。

環境要因

アトピー性皮膚炎が発症する直接的な原因は、環境アレルゲンです。環境アレルゲンとは生活環境の中に存在している物質で、主な環境アレルゲンには下記のようなものがあります。

・ハウスダストマイト(塵や埃のことではなく、室内ダニのことです)

・昆虫

・植物(雑草、牧草、樹木など)

・細菌、カビ

分泌腺異常の併発

アトピー性皮膚炎は、脂漏症等の分泌腺の異常を併発することが少なくありません。その場合、皮膚バリア機能が弱って乾燥肌になりやすい一方、皮脂や汗が過剰に分泌され、肌がベタベタするという場合もあります。

常在菌の増殖

アトピー性皮膚炎の場合、皮膚の表面に常在している菌が増殖しやすくなり、その増殖した常在菌に対してアレルギー反応を起こして症状が悪化するという場合もあります。

食餌内容

欧米では、アトピー性皮膚炎の犬の最大75%が何らかの食物アレルギーを持っていたことが報告されており、食物アレルギーも併せ持っている場合が少なくありません。その場合、食餌内容の管理も症状に大きく影響します。

ストレス

直接的な原因ではありませんが、ストレスがかゆみを悪化させる可能性が指摘されています。かゆみが継続するとそれがストレスとなり、さらにかゆみが悪化するという悪循環が生まれます。性格や行動に異常が認められる場合は、ストレスも悪化要因の一つとして考慮する必要があります。

アトピー性皮膚炎になりやすい犬種

アトピー性皮膚炎になりやすい犬種は、柴犬、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア、シー・ズー、パグ、ボストン・テリア、フレンチ・ブルドッグ、ミニチュア・シュナウザー、ラブラドール/ゴールデン・レトリバー、ヨークシャー・テリア、ワイヤーへアード・フォックス・テリアなどですが、その他にも、雑種を含めさまざまな犬種で発症します。

アトピー性皮膚炎の治療方法

これまで述べてきた通り、アトピー性皮膚炎の背景にはさまざまな要因が複雑に絡まっており、個体毎に最適な治療方法を選ぶ必要があります。そのため、ここではアトピー性皮膚炎のみに絞った観点で、治療方法を紹介します。

アトピー性皮膚炎の治療は、薬物療法と日常的なケアになります。アトピー性皮膚炎で適用される一般的な薬物療法には、下記があります。

ステロイド

主に皮膚の炎症とかゆみを緩和し、即効性が期待できます。外用薬では5段階の強さがあります。多飲多尿、過食、感染症誘発、ホルモンバランス破綻、脱毛などの副作用があり、長期使用はせず代替療法に切り替えたりします。

免疫抑制剤

免疫機構に関わるリンパ球の活動や抗体産生を抑えます。ステロイドの代替療法や併用療法として使用しますが、即効性は期待できません。感染症、骨髄抑制、胃腸障害等の副作用があり、使用中のモニタリングが必要です。

分子標的薬

皮膚でかゆみや炎症を引き起こす分子の機能を抑制します。副作用として感染症誘発がありますが、ステロイドよりも発症率が少ないと考えられます。ただし新しい薬なので、長期的使用の安全性に関してはまだ情報不足です。

抗ヒスタミン剤

皮膚の炎症反応に関わるヒスタミンという生理活性物質をブロックします。アレルギーの炎症やかゆみを抑える作用は軽く、効果が出るまでに時間がかかりますが、副作用が軽く長期的な使用にも耐えられます。

インターフェロン-γ

元々動物の体内に存在する物質で、免疫調整作用、細胞増殖抑制作用、抗ウィルス作用があります。ステロイドや免疫抑制剤のように強い効果はありませんが、副作用が軽いのが特徴です。基本的に注射で投与します。

減感作療法

アレルゲンの抽出液を低濃度から投与していき、徐々に体質の改善を図る治療法です。投与方法は主に注射です。副作用は軽いのですが、直接アレルゲンを接種するため一時的な症状悪化の可能性があります。

アトピー性皮膚炎のケアで気をつけたいこと

アトピー性皮膚炎の時に、特に気をつけてケアすべき事項を紹介します。

洗浄

1週間に1回の洗浄が目安です。シャンプーは、刺激性の低いアミノ酸系界面活性剤をベースにし、保湿成分が含まれているものがおすすめです。シャンプー後には必ず保湿処理を行うことが大切です。保湿剤は、セラミドなどの細胞間脂質成分やヘパリン類似物質などの天然保湿因子等、複数の成分を組み合わせたものが良いでしょう。

アレルゲンからの保護

環境アレルゲンから愛犬を守るためには、こまめな清掃と服の着用が有効です。特に花粉がアレルゲンの場合は、外出時の服の着用が効果的です。また、服の着用で直接掻けなくなり、かゆみの増長を抑える効果も期待できます。

賦活(ふかつ)

賦活とは、皮膚が本来持っている機能を高めるスキンケアです。乾燥が激しい場合はシャンプーや入浴時だけではなく、日常的に皮膚をマッサージし、皮脂や汗の分泌を促しましょう。

栄養管理

食物アレルギーがある場合は、交差反応の可能性がある食材にも注意しましょう。交差反応とは、食物アレルゲンではないが、食物アレルゲンとタンパク質の形が似ているためにアレルギー反応を引き起こしてしまうことで、例えば下記のような食材です。

<牛肉に対する交差反応の可能性がある食材>

牛乳、鶏肉、羊肉、豚肉、馬肉、兎肉

<鶏肉に対する交差反応の可能性がある食材>

鶏卵、ウズラ、七面鳥

<牛乳に対する交差反応の可能性がある食材>

チーズ

ストレスケア

かゆみが悪化するタイミングをよく観察し、ストレスが原因の場合はできるだけ排除しましょう。東日本大震災以降、天候悪化や騒音、地震によりかゆみが顕著に悪化する症例が増えているようです。

アトピー性皮膚炎のスキンケアでよくある失敗例

アトピー性皮膚炎の場合、スキンケアを間違えて症状の悪化を招くことがあります。アトピー性皮膚炎の犬は、皮膚バリア機能が低下していることを理解しましょう。よくある失敗例を紹介しますので、参考にしてください。

1.皮膚や毛を清潔に維持できていない

せっかく洗浄してもすぐにアレルゲンを付けてしまってはいませんか。

2.シャンプーをした後に保湿をしていない

3.シャンプー回数が多すぎる

週に2~3回洗っているのに症状が良くならない時は洗い過ぎかもしれません。

4.洗浄力が強過ぎるシャンプーを使っている

5.過度なドライイングを行なっている

洗浄後の生乾きは良くありませんが、過度なドライイングも皮膚バリア機能を低下させます。

6.毛の刈り過ぎ

毛も、アレルゲンの付着防止に役立っており、短く刈り過ぎると良くない場合があります。

*参考図書、文献

・『獣医皮膚科専門医が教える 犬のスキンケアパーフェクトガイド』interzoo

・『トリマーのための ベーシック獣医学』ペットライフ社

執筆者:nicosuke-pko先生

小動物看護士、小動物介護士、ペット飼育管理士農学部畜産学科卒業後、総合電機メーカーにて農業関係のシステム開発等に携わる。飼い猫の進行性脳疾患発症を機に退職。

 小動物関連の資格を取得し、犬や猫の健康管理を中心とした記事を執筆しながら飼い猫の看病を中心とした生活を送っている。自分の経験や習得した知識を元に執筆した記事を通して、より多くの方の犬や猫との幸せな暮らしに役立ちたいと願っている。