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犬の疥癬について
執筆者:ramoup先生
認定動物看護師・JKC認定トリマー
名前からして痒そうなイメージのある皮膚病といえば、疥癬(かいせん)です。
疥癬は人やタヌキなどに寄生するヒゼンダニが原因で発症する病気で、動物種によってヒゼンダニの種類も違います。
複数あるヒゼンダニのうち、犬に寄生するのは「イヌセンコウヒゼンダニ」という体長約0.4mmの寄生虫です。
イヌセンコウヒゼンダニは犬の皮膚を食い破ってトンネルを作り、皮膚の下に卵や糞、脱皮の殻などを残していきます。
疥癬のもっとも大きな特徴である「激しい痒み」は、ヒゼンダニの残したゴミが原因で引き起こされるのですね。
疥癬の主な症状は全身の激しい痒みですが、体を掻きむしることで大量のフケやかさぶたもみられるようになります。
ヒゼンダニの数が増えるほど体の痒みは増していくので、日がたつほど日常生活に支障が出る病気といってよいでしょう。
ひどい時は耳の先からしっぽの先までかさぶたに覆われてしまい、見た目的にも重症度がよく分かります。
なお、一般的な疥癬の潜伏期間は約2~6週間程度です。
疥癬は感染してもすぐに痒みが表れるわけではないので、気付かないうちに感染が拡大することもあります。
ほとんど目で見えないほど小さいサイズでありながら、およそ1か月間は毎日欠かさず産卵するイヌセンコウヒゼンダニ。
全身の激しい痒みなどツラい症状を緩和するためには、できるだけ早く治療を行うことが大切ですよ。
犬の疥癬の原因
犬の疥癬は、イヌセンコウヒゼンダニに寄生された動物との接触によって感染します。
すでに疥癬を発症している犬はもちろん、イヌセンコウヒゼンダニが寄生した直後の動物と触れ合うのもNG。
お手入れに使用するブラシやバリカンなどを感染動物と共用したり、感染動物を触った手で犬の触ったりしてもいけません。
特に、タヌキはイヌセンコウヒゼンダニの寄生リスクが高い動物なので、けっして触れ合わないように注意しましょう。
なお、ペットホテルや動物病院、トリミングサロンでも疥癬に感染するリスクがあるため、きちんとした消毒・清掃が必要です。
たくさんの犬が集まるドッグランなどでも感染する可能性があるので、十分に注意するようにしてくださいね。
疥癬になりやすい犬種
イヌセンコウヒゼンダニと接触さえすれば、どんな犬でも疥癬にかかる可能性はあります。
一般的に疥癬は2歳以下の若い犬に多く発症するといわれていますが、これは年齢が原因ではありません。
というのも、若い頃は元気で運動量が多いので、イヌセンコウヒゼンダニの潜む草むらなどに入る可能性が高いから。
愛犬の散歩コースに草木が多かったり、茂みに入るクセがある場合には、普段から注意が必要ですね。
なお、疥癬はイヌセンコウヒゼンダニの卵や糞、脱皮殻などにアレルギー反応を起こした状態です。
そのため、自己免疫性疾患やホルモン性の病気(クッシングなど)で免疫抑制剤を服用している犬は要注意。
愛犬の体質によっては、アナフィラキシーショックという急性のアレルギー症状が引き起こされる可能性があります。
もし愛犬が何らかの治療を受けている時には、できるだけ緑の多い場所を避けるようにしましょう。
疥癬の治療方法
日ごとに悪化する痒みがツラい疥癬ですが、一体どのような治療を行うのでしょうか?
犬の疥癬では、ヒゼンダニの駆除と体の痒みを抑えるという2つの目的に沿って治療を行います。
駆虫薬の塗布
まずは専用の駆虫薬を使って、イヌセンコウヒゼンダニの駆除を行います。
代表的な駆虫薬としては、ミルベマイシン、イベルメクチン、セラメクチンなどがあげられますね。
種類によって使い方は違いますが、イヌセンコウヒゼンダニへの効果は3つとも高いので安心してください。
※ただし、コリーやシェットランド・シープドッグなど、特定の犬種にはイベルメクチンを使用することはできません。
何故なら、これらの犬種は薬の代謝に関連する遺伝子変異があるため、重い副作用を引き起こす可能性があるからです。
使用したからといって必ず副作用が起こるわけではありませんが、避けておくにこしたことはないでしょう。
その他、イベルメクチンはフィラリア症に感染している犬にも使うことができないなど、注意が必要な駆虫薬です。
もし愛犬に駆虫薬を使用するのであれば、必ずかかりつけの獣医師の指示に従ってくださいね。
【駆虫薬使用時に注意が必要な犬種】
・コリー
・シェットランドシープドッグ
・オールドイングリッシュシープドッグ
・オーストラリアンシェパード など
内服薬(飲み薬)
痒みの原因物質であるホルモン「ヒスタミン」の分泌を抑えて、体の痒みを落ち着かせます。
抗ヒスタミン薬には様々な種類がありますが、痒みがかなりひどい場合はステロイドを使うことも。
投与期間と量さえ守れば、ステロイド薬の使用は疥癬の重い症状を抑える有効な手段といえるでしょう。
飲み薬の使い過ぎはかえって体に良くないので、正しい用法・容量を守るようにしましょう。
外用薬(塗り薬)
外用薬には、ヒゼンダニを駆除する目的のものと、痒みを抑える目的の2種類があります。
飲み薬にくらべて副作用が起こる可能性が低いため、免疫力の低い子犬やシニア犬によく使われますよ。
そのぶん効果もそれほど高くありませんが、飲み薬や駆虫薬の補助として効果が期待できます。
なお、ヒゼンダニの生命力はそれほど強くないので、通常は1度の駆虫で駆除できることが多いです。
皮膚が完全に良くなるまで時間はかかりますが、塗り薬などを上手に使って痒みを和らげるのが大切です。
ヒゼンダニが完全に死滅しても痒みはしばらく残るので、治療は完治まで続けるようにしてくださいね。
薬浴
薬用サルファ・サリチル酸シャンプーなどの薬用シャンプーを使って、定期的に薬浴を行います。
硫黄サリチル酸シャンプーは疥癬の治療用としても知られていて、硬くなった皮膚を柔らかくする作用があります。
また、痒みを抑える止痒性や細菌の繁殖を抑える静菌作用も備えているので、疥癬時のシャンプーにはぴったり!
薬浴後は皮膚が乾燥しやすいので、必ず保湿剤を塗り込んであげるようにしましょう。
疥癬の時に気を付けたいこと
疥癬は犬から犬へうつる皮膚病ですが、時には人に感染することもあります。
ただし、イヌセンコウヒゼンダニはあくまで犬に寄生するダニなので、3週間以上は人の皮膚に寄生できません。
そのため人の皮膚上で繁殖することもありませんが、1度寄生すると約7~14日は痒みに苦しむことになるでしょう。
なお、何度でも感染してしまうので、愛犬の治療を行わない限り常に疥癬の症状が出ることになります。
もし愛犬が疥癬になってしまったら、ヒゼンダニの被害がこれ以上広がらないよう生活環境を見直す必要があります。
同居動物がいる場合はもちろん、飼い主さん自身の感染を防ぐためにも、衛生面には十分注意してくださいね。
・同居動物とタオルやベッドを共用しない
・ケージ内は毎日キレイに掃除し、布製のものは1~2回に1回洗う
・カーペットには毎日掃除機をかけ、ヒゼンダニを吸い取る
症状が重い場合には、体を掻きむしることによって皮膚に傷がついてしまいます。
疥癬は我慢できないほどの激しい痒みがあるので、どうしても我慢ができないのですね。
ですが、その傷からブドウ球菌などの細菌が侵入してしまうと、他の皮膚病を併発してしまう原因になることも。
ただでさえ掻きむしりによって皮膚バリアが壊れているのに、これではいつまでたっても皮膚の炎症が収まりません。
もし愛犬が疥癬になってしまったら、できるだけ体を掻かないような工夫をするようにしましょう。
掻いても皮膚が傷つかないように洋服を着せたり、靴下を履かせたりするのも効果が期待できますね。
疥癬にならないために、予防や日頃のケアのポイント4つ
疥癬にならないために知っておきたいポイントは、主に以下の4つがあげられます。
・感染動物と触れ合わない
・できるだけ草むらなどには近寄らない
・常に衛生的な環境を保つようにする
・普段から免疫力を高めておく
疥癬にならないために1番大切なことは、なにより「感染動物と触れ合わない」こと!
イヌセンコウヒゼンダニが寄生している動物と接触すると、疥癬になるリスクは急激に高くなります。
他犬とコミュニケーションをとることはとても良いことですが、不特定多数の犬と触れ合う場では注意が必要ですね。
また、イヌセンコウヒゼンダニは春頃に活発化するので、季節の変わり目は特に気を付けましょう。
イヌセンコウヒゼンダニは犬の体に寄生しなければ長生きできない寄生虫で、犬から離れると数日で死滅します。
熱・乾燥にも弱いので、熱湯消毒や空気の入れ替え、洗濯などをしっかりすれば感染リスクは十分抑えることができますよ。
また、免疫力が落ちていると疥癬になりやすくなるので、普段から病気への抵抗力を高めておくことも必要です。
栄養バランスの整った食事をはじめ、適度な運動と睡眠、スキンシップを行って、病気に負けない体作りを心がけましょう。
最近では免疫力アップに効果が期待できるサプリメントも人気が高いので、上手に活用してみてはいかがでしょうか?
執筆者:ramoup先生
経歴:ヤマザキ動物看護大学卒業。認定動物看護師・JKC認定トリマー。
動物病院勤務で培った知識・経験を活かし、「病気に関する情報を分かりやすく」お届けします。愛犬・愛猫の病気について、飼い主様がより理解を深める際のお手伝いができれば嬉しいです。