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柴犬に多いアトピー性皮膚炎とは
執筆者:ナルセノゾミ先生
動物看護士、愛玩動物飼養管理士
アトピー性皮膚炎とは
アトピー性皮膚炎は、ダニや花粉、植物などさまざまなアレルゲンに、体の免疫反応が過剰にはたらくことでおこる皮膚炎です。
生後6ヶ月~3歳頃までに最初の症状が出ることが多く、体の痒みからはじまり、年齢とともに徐々に症状が強くなることが特徴です。
遺伝的要因が強いとされており、好発犬種は柴犬、ゴールデンレトリーバー、パグ、フレンチブルドック、シーズー、ウエストハイランドホワイトテリアです。
また、アトピーは生まれつきの体質のため、完治は難しいとされています。
◇アトピーとアレルギーの違い
アトピーと混同されがちなのが、アレルギー。
アトピー性皮膚炎とアレルギー性皮膚炎は、症状そのものは皮膚炎のため似ていますが、メカニズムが異なります。
アトピー性皮膚炎は生まれつきの体質で、皮膚のバリア機能が低下してドライスキン(乾燥肌)になることで、皮膚からアレルゲンが侵入することで起こります。
生まれつき肌のバリア機能が弱いことが、アトピー体質です。
アレルギーは、アレルゲン物質を吸引、接触するなどし続けた結果、皮膚炎をはじめとしたさまざまな症状がでることを指します。
アレルギー性皮膚炎は、この症状が皮膚炎として現れている状態のことになります。
どちらも、体にとって無害な物質を「敵」とみなし、体から排除しようとアレルギー反応を引き起こすものなので混同しやすいのかもしれません。
アレルギー性皮膚炎の場合は、原因となるアレルゲンを特定し、接触を避けるといった対処が可能ですが、アトピー性皮膚炎の場合は体質や複数の原因が考えられるため、治療が難航するケースも多くみられます。
また、アトピー体質のワンちゃんは、何らかのアレルギーを持っていることも多く、原因の特定や治療が複雑化することが多いのです。
◇アトピー性皮膚炎の症状
アトピー性皮膚炎は、まず皮膚の痒みがみられます。
初めての症状は3歳頃までにあらわれ、最初は体の痒みのみ。
最初は皮膚症状がないため、見過ごされてしまうケースも多いようです。
次第に皮膚症状がみられ、皮膚の赤み、脱毛、体を掻くことによる色素沈着などがおこります。
症状がでるのは、顔、耳、指間、脇、足や尻尾の付け根など。ちなみに、背中には異常がありません。
春から秋にかけてに症状が出て、その度合いには波があります。
もちろん、アトピー性皮膚炎だけでなく、その他のアレルギー症状や感染性皮膚炎、基礎疾患の有無によっても症状は異なりますので、体をかゆがる仕草がみられたら、すぐに動物病院で診てもらうようにしましょう。
アトピー性皮膚炎の診断と治療
動物病院を受診したからといって、すぐに「アトピー性皮膚炎ですね」と診断されることはありません。
症状、犬種、年齢などでアトピー性皮膚炎の可能性があっても、まずは類似の症状がある皮膚疾患ではないかを検査します。
アトピーやアレルギーだけではなく、寄生虫や細菌・真菌の感染による皮膚炎も多く存在するため、血液検査や皮膚検査などで調べ、可能性を潰していきます。
そのどれでもない、という診断が下りたあとに「アトピー性皮膚炎の可能性がある」という判断になるのです。
そのため、アトピー性皮膚炎という診断には時間がかかり、複雑な要因が重なっていることが多いため、長い目で経過観察をする必要があります。
アトピー性皮膚炎の治療方法
アトピー体質は生まれつきのため、ここまで治療すれば完治する、という単純な皮膚疾患ではありません。
痒みや諸症状に対しての対症療法が基本となります。
使用する治療薬や方針はケースバイケースであり、アプローチする部分によって、処方される薬や治療も異なります。
《痒みへのアプローチ》
・強い痒み:ステロイドで症状を一気に抑える
・痒み:非ステロイドの抗生物質で痒みを緩和、およびコントロール
《過剰な免疫機能へのアプローチ》
・アレルギーを引き起こす物質の分泌を抑える:抗ヒスタミン剤
・免疫機能のバランスを整える:インターフェロン
《スキンケアとしてのアプローチ》
・体に付着したアレルゲンを洗い流し、保湿する:シャンプー療法
《食事へのアプローチ》
・皮膚の健康を考えたフードを取り入れる:療法食
・皮膚を健康に保つ栄養を摂る:サプリメント
治療に関しては、この薬を使えばアトピー性皮膚炎に効く!というものは残念ながらなく、効果にも個体差があるため、症状や経過によって変えていくこともよくあります。
また、ステロイドは効き目も強力ですが、副作用を気にされる飼い主さんも多い印象を受けます。
どの薬にも副作用のリスクはありますが、用法・用量を守って使用すれば、効果的な治療となるケースも多いです。
とはいえ、不明点が残っていると不安が残りますよね。
不明点や不安に思うことがあれば、遠慮なく獣医師に質問してくださいね。
柴犬とアトピー性皮膚炎の関係
病気に強い、タフというイメージがある柴犬。
確かに病気全般にかかりづらい面もありますが、皮膚疾患に関しては好発犬種として挙げられることが多いのです。
アトピー性皮膚炎も同様で、日本犬の中では断トツで柴犬の発症率が高いとされています。
柴犬は家族への忠誠心が強く、外部への警戒心の強さから番犬として古くから親しまれていました。
警戒心が強いという気質は、デリケートとも言い換えられます。
環境などのストレスに対するセンサーが敏感であり、そうした気質が関係しているとも言われています。
また、番犬としての歴史が長いことから、動物病院での治療に対する抵抗も強い傾向にあり、飼い主さんであっても薬を飲ませることが困難なケースもみられます。
治療が多大なストレスになってしまっては元も子もありませんから、その場合はお薬のあげ方なども工夫し、気長に付き合っていきましょう。
併発の可能性のある皮膚疾患
皮膚のバリア機能が低下している状態では、その他の皮膚炎にもかかりやすくなるリスクがあります。
健康な皮膚では感染しない菌が増殖し、アトピー性皮膚炎の治療をさらに複雑化させてしまうこともあります。
ここでは、犬によく見られる常在菌による代表的な皮膚疾患である
・マラセチア皮膚炎
・膿皮症
についてご紹介します。
マラセチア皮膚炎・外耳炎
皮膚の常在菌であるマラセチア菌というカビの一種が異常繁殖することでおこる皮膚炎です。
皮膚炎だけでなく、耳の中に感染がおこると外耳炎も引き起こします。
症状は痒み、フケ、酵母独特の臭い、黒い耳垢など。
高温多湿を好むため、ジメジメした季節には注意しましょう。
膿皮症
膿皮症も、皮膚の常在菌であるブドウ球菌が原因でおこる皮膚炎です。
痒み、赤み、フケ、脱毛などの症状がみられます。
ブドウ球菌は温かく湿った場所で繁殖するため、マラセチア皮膚炎同様、ジメジメした季節に注意が必要です。
アトピー性皮膚炎に対する日々のケアと予防対策
アトピー性皮膚炎は、あくまでも持って生まれた体質が影響して発症する皮膚疾患です。
一生付き合っていくものなので、症状をコントロールするように日頃のケアがとても重要になります。
ポイントは次の3つです。
・アレルゲンとの接触を避ける
・正しいスキンケアをする
・皮膚の健康を考えた栄養をとる
愛犬の皮膚の状態をチェックしながら、上手にアトピー体質と付き合っていきましょう!
アレルゲンとの接触を避ける
反応するアレルゲンがある程度特定できた場合や、アレルギー性皮膚炎を併発している場合では、体が反応してしまうアレルゲン物質との接触を極力避けることが大切です。
ダニであれば、布製品はこまめに洗濯・乾燥させたり、花粉や植物が原因であれば、外出時は洋服の着用や、帰宅後は体の表面についたアレルゲンを落とすなどの工夫が必要です。
原因物質との接触が抑えられれば、皮膚症状が抑えられます。
アトピー性皮膚炎の場合、すべてのアレルゲンを特定することは難しいのですが、症状が出る前の愛犬の行動や居た場所から推測し、可能な限り一つひとつの原因を排除していきます。
気の遠くなる作業ですが、長く付き合っていくことですから、気長に取り組んでいきましょう。
正しいスキンケアをする
体についたアレルゲン物質を落とそうとして、過剰なシャンプーをすることは禁物です。
皮膚炎が悪化する原因になることもありますので、皮膚に優しいシャンプー剤を選ぶとともに、頻度についても獣医師に相談しましょう。
アトピー性皮膚炎は皮膚の乾燥が大敵。
人間のように化粧水や乳液をつけるわけにはいきませんから、シャンプー剤での保湿効果が重要です。
皮膚の健康を考えた栄養をとる
皮膚の健康には、「脂肪酸」が大きく関わっています。
中でも、不飽和脂肪酸に分類されるオメガ3系脂肪酸、オメガ6系脂肪酸は、皮膚の水分量を調整したり、炎症を抑えるはたらきをしています。
この2つの栄養素、犬は体で合成できないため、食事から摂る必要があります。
食材としては、オメガ3系脂肪酸は、マグロ・サバ・ブリなどの青魚や、くるみなどのナッツ類。
オメガ6系脂肪酸は、大豆油、アマニ油、コーン油などの植物由来の油に多く含まれています。
これらの食材を使った手作り食を作ってあげることも1つの方法ですが、その他の栄養バランスが崩れてしまうこともあります。
そのため、皮膚の健康に配慮した療法食をはじめとした専用フードや、サプリメントで不飽和脂肪酸を摂取する方法が手軽でおすすめです。
柴犬に多いアトピー性皮膚炎まとめ
犬のアトピー性皮膚炎は生まれつきの体質で、発症後の完治は残念ながら難しい病気です。
アトピー体質を持つワンちゃんは、他のアレルギー性疾患を持っていることも多く、症状の原因は一つではないため、診断や治療には時間がかかります。
しかし、症状を抑えたりコントロールすることで、アトピー体質とうまく付き合っていくことが大切。
一つひとつ原因を取り除き、栄養バランスを整えて体質改善を目指すことで、愛犬の個性と向き合っている飼い主さんもたくさんいらっしゃいます。
治療薬や方針も多種多様ですので、獣医師と相談し、大切な愛犬に合った治療を探していきましょう。
執筆者:ナルセノゾミ先生
動物看護士、愛玩動物飼養管理士
仙台総合ペット専門学校で、動物看護・アニマルセラピーについて学ぶ。
在学中は動物病院・ペットショップの他、動物園での実習も経験。
犬猫、小動物はもちろん、野生動物や昆虫まで、生粋の生き物オタク。
関わる動物たちを幸せにしたい、をモットーに活動しているWebライター。