目次
皮膚がベタベタ~犬の脂漏症の原因・症状、治療を行うポイント
執筆者:ramoup先生
動物看護師、JKC認定トリマー
犬の脂漏症について
脂漏症とは、その名の通り「皮脂が漏れるほど多く分泌されてしまう病気」のこと。
何らかの理由で皮脂成分のバランスが悪くなることで発症し、フケや痒みなどの症状が表れます。
犬の脂漏症は、症状によって「脂性脂漏症」と「乾性脂漏症」の2種類に分類されています。
犬の脂漏症の種類
脂性脂漏症
皮膚がベタつき、フケが毛を束ねるように付着する。抜け毛が増え、体臭が強くなる。
乾性脂漏症
皮膚がかさつき、乾燥したフケが出る。抜け毛は少ないが、毛艶が悪くなる。
どちらの脂漏症も、背中・症状は首の内側・脇・股・指の間・尾の付け根などに多く現れます。
これらの部位は皮脂の分泌量が比較的多いので、マラセチア菌が増殖しやすいのですね。
特定の箇所を掻き続けることで皮膚が色素沈着を起こし、ゴワゴワとした黒くて硬い皮膚になります。
脂漏症は清潔にしていれば治るものではなく、れっきとした病気です。
また体質が大きく関係しているので、環境によっては再発を繰り返してしまうかもしれません。
もし愛犬に脂漏症の疑いがある場合は、できるだけ早く獣医師の診察を受けるようにしましょうね。
犬の脂漏症の原因
脂漏症は、マラセチア菌をはじめとする様々な細菌の増殖によって起こります。
マラセチア菌が原因で起こる病気のうち、もっとも知られているのはマラセチア性皮膚炎ではないでしょうか?
この2つの病気は混同されやすいのですが、脂漏症とマラセチア性皮膚炎は別の病気です。
正確には、脂漏症になることで皮脂の量が増え、それをエサにマラセチア菌が増えて皮膚炎を起こすのです。
皮脂の分泌異常が起こる原因は色々とありますが、主な6つの原因をまとめてみました。
①皮膚の炎症
②ホルモンバランスの乱れ
③高温多湿の環境
④栄養バランスの悪い食事
⑤アレルギー体質
⑥遺伝性
これらの要因によって皮脂バランスが悪くなると、皮膚のターンオーバーは徐々に乱れていきます。
正常な犬のターンオーバーは3週間ほどですが、脂漏症の犬では1週間未満と圧倒的にサイクルが早い!
ターンオーバーとは、古い皮膚と新しい皮膚が入れ替わる周期のことで、健康な皮膚を保つために欠かせないものです。
しかし、脂漏症の犬では正常なターンオーバーができないので、かえって皮膚が炎症を起こしてしまいます。
脂漏症の犬にフケが多い理由は、まだ未熟な皮膚もどんどん剥がれ落ちてしまうからなんですね。
脂漏症になりやすい犬種
脂漏症はどんな犬でも発症する可能性がありますが、なかには生まれつき発症リスクが高い犬種もいます。
具体的に、どのような犬種が脂漏症になりやすい体質を持って生まれてくるのでしょうか?
脂漏症のタイプ別に、発症しやすい犬種をまとめてみました。
脂性脂漏症になりやすい犬
脂腺の数が多い:
コッカースパニエル、ウェスティ、シーズー、バセット・ハウンド、秋田犬、レトリーバー種など
顔や体のシワが多い:
シャーペイ、ブルドッグ、ペキニーズ、狆(ちん)、パグ、フレンチ・ブルドッグなど
アトピー性皮膚炎などアレルギー体質:
シーズー、ウェスティ、パグ、ブルドッグ、トイ・プードル、柴犬、ダックスフントなど
乾性脂漏症になりやすい犬
ジャーマン・シェパード、アイリッシュ・セッター、ドーベルマン、ダックスフントなど
同じ脂漏症であっても、脂性脂漏症と乾性脂漏症はそれぞれ発症しやすい犬種が異なるのですね。
特にコッカースパニエルとウェスティ、シーズーとバセット・ハウンドは、脂漏症になりやすい犬種です。
脂漏症の治療方法
脂漏症を治すためには、できるだけ早く治療を受けることがなによりも大切!
動物病院での脂漏症治療は、主に投薬や薬浴によるマラセチア菌の除去をメインとして行います。
まずはマラセチア菌のえさである皮脂量を正常に戻し、増えすぎたマラセチア菌を減らしていきましょう。
1.飲み薬(内服薬)
皮膚の炎症や皮脂の分泌、マラセチア菌の増殖を抑える薬を服用します。
ホルモン異常によって皮脂が過剰に分泌されている場合は、ホルモン調整薬などを服用することも。
体内でしっかりと吸収されるぶん効果が現れやすく、外用薬と並行して使用されます。
2.塗り薬・消毒剤(外用薬)
殺菌作用のあるクロルヘキシジンが配合されている外用薬を使って、細菌や真菌を除去します。
代表的な外用薬には、「ケトコナゾール、ミコナゾール、テルビナフィン」などが挙げられ、安全性も◎。
クリームタイプやローションタイプなど様々なものがあり、皮膚の状態に合ったものが処方されます。
3.薬浴(シャンプーなど)
抗菌・抗真菌作用のあるシャンプーを使って、薬浴を行う治療法です。
使用するシャンプーの種類は、病気の重症度や合併症の有無によって変わります。
シャンプー前に重曹泉やマイクロバブル浴に入っておき、更に効果を高めることもできます。
薬浴の頻度は症状の進行度によって違いますが、基本的には週に2回から始めることが多いでしょう。
その後の症状の改善具合によって、シャンプー剤の種類は変更されます。
4.その他の病気の治療
脂漏症の犬のうち、多くがホルモン疾患やアトピーなどの合併症を抱えています。
病気によっては脂漏症と違った治療が必要なので、2つの病気の治療を並行して進めていくのです。
また、基礎疾患を治療することで皮膚バリアが改善し、脂漏症の症状を抑えることもできます。
脂漏症のときに気を付けたい5つのこと
もしも愛犬が脂漏症になってしまったら、気を付けたいことは色々とあります。
ここでは、脂漏症の時に気を付けたいことを大きく5つに絞ってみました。
1.薬用シャンプーは皮膚の状態に合ったものを
脂漏症の犬に使う薬用シャンプーは、皮膚の状態やマラセチア菌の数によって変更しましょう。
というのも、「マラセチア菌を除去するシャンプー」と「マラセチア菌の増殖を抑えるシャンプー」は別物だから。
マラセチア菌を除去するシャンプーは皮膚への刺激が強いものが多いので、長期間は使えません。
そのため、予防目的で長期にわたって使用していると、かえって愛犬の肌にダメージを与えてしまいかねないのです。
愛犬の肌バリアを壊さないためにも、薬用シャンプーは皮膚の状態に合ったものを選びましょう。
購入する時は、必ずかかりつけの獣医師へ確認してからにしてくださいね。
2.シャンプー後は被毛をしっかり乾かす
脂漏症の原因菌であるマラセチア菌は、湿った場所が大好き!
そのため、シャンプーの後に乾かし残しがあると、前よりも症状が悪化する可能性があります。
シャンプー後は吸水性の高いタオルでしっかりと被毛の水気をふき取り、ドライヤーを使って丁寧に乾かしましょう。
あまり長くドライヤーを当てていると皮膚にダメージが残るので、タオルドライはとにかく入念に。
愛犬がヤケドしないよう、ドライヤーは体から20cm以上離して使ってくださいね。
3.保湿は日常的に行う
ドライヤー後はもちろん、1日に1回は保湿剤を使って皮膚のケアを行いましょう。
「ただでさえ油っぽいのに保湿して大丈夫?」と思うかもしれませんが、保湿はベタベタな時こそ重要!
シャンプーや普段の生活で皮膚が必要以上に乾燥してしまうと、犬の皮膚は余計に皮脂を出すようになります。
私たちがお風呂上りに保湿液や乳液をつけるように、愛犬にも定期的な保湿が必要なんですね。
とはいっても、どんな保湿剤でも良いというわけではありません。
脂性脂漏症の場合はローションやスプレーなど、さっぱり仕上がるものが良いでしょう。
たいして乾性脂漏症では、保湿効果が長く続くオイルタイプの保湿剤がおすすめ。
クリームタイプの保湿剤は皮膚を柔らかくする効果が高いので、どちらでも使うことができます。
皮膚がゴワゴワと硬くなっている場合には、10~20%程度の尿素クリームが効果的ですよ。
4.栄養バランスの整った食事を与える
栄養バランスの整った食事を与えることで、脂漏症が改善するケースがあります。
そもそも、栄養バランスの悪い食事は脂漏症を悪化させてしまいますし、他の病気を引き起こしかねません。
ジャーキーなどのオヤツには糖質や脂質がたくさん含まれているので、できれば避けたほうが良いですね。
愛犬のオヤツを購入する時は、できるだけヘルシーで自然派なものを選ぶようにしましょう。
5.温度・湿度には注意して
もし愛犬が脂漏症になってしまったら、1年間を通して室温・湿度に気をつけましょう。
真夏のように高温多湿な環境では、脂漏症の発症リスクや症状が悪化する可能性が高くなります。
夏場はエアコンを使ってしっかり室温を下げ、愛犬が快適に過ごせるような環境を作ってあげてくださいね。
また、普段よりマラセチア菌が繁殖しやすい梅雨時は、湿度を常に40~60%に調整しておくこと。
エアコンのドライモードで湿度を下げるだけでも、体感温度はグッと下がりますよ。
脂漏症にならないために、予防や日頃のケアの3つのポイント
脂漏症の予防でもっとも大切なことは、健康的な生活を送ることと、清潔を保つことです。
ただ若い頃に発症する脂漏症のほとんどは遺伝性といわれているので、確実に予防することは難しいでしょう。
ですが、日頃から愛犬の様子に気をくばり、適切な生活環境を整えれば、症状を緩和させることはできます。
以下のポイントをしっかり押さえて、愛犬が毎日を快適に過ごせるようにしてあげてくださいね。
1.定期的なシャンプーで体を清潔に
上でも説明しましたが、定期的なシャンプーは脂漏症の予防・改善にとても効果があります。
そのため月に1~2回は「マラセチア菌の増殖を抑える効果のあるシャンプー」で愛犬の体を洗ってあげましょう。
皮脂分泌が多い体質の愛犬には、ベタベタ肌用などさっぱりタイプのシャンプーがおすすめですよ。
アトピーなどで皮膚に痒みがみられるなら、オートミールなど保湿・止痒作用のある成分が配合されているものがベスト。
適切なシャンプーは皮膚の状態によって変わるので、かかりつけの獣医師に相談してみてくださいね。
2.体にはけっして水気を残さないこと
できるだけ湿気のある環境を避け、脂漏症の原因菌であるマラセチア菌が増殖するのを防ぎましょう。
雨の日のお散歩はもちろん、湿った土の上や濡れた芝生を歩いた後は必ず愛犬の手足を拭いてあげること。
アルコール入りのウェットティッシュなら放っておいても水分が飛んでいくので、わざわざ乾かす必要もありません。
あまりゴシゴシこするとかえって皮膚に悪影響なので、優しく丁寧に拭いてあげてくださいね。
シャンプー後もそうですが、体にはけっして水気を残さないことが大切です。
3.毎日1回はブラッシングをしてあげよう
皮膚・被毛の健康を保つためにも、毎日1回はブラッシングをかけてあげましょう。
ブラッシングには被毛に付いた汚れを落としたり、古い被毛を取り除いたりする効果があります。
特にダブルコート(2重構造の被毛)の犬種は被毛の密度が高いので、カビや細菌の温床になってしまうことも…。
ブラッシングによって古い被毛を取り除いておくことで、脂漏症を引き起こす原因を除去することができます。
執筆者:ramoup先生
経歴:ヤマザキ動物看護大学卒業。認定動物看護師・JKC認定トリマー。
動物病院勤務で培った知識・経験を活かし、「病気に関する情報を分かりやすく」お届けします。愛犬・愛猫の病気について、飼い主様がより理解を深める際のお手伝いができれば嬉しいです。