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犬の脱毛症について
ナルセノゾミ先生
動物看護士、愛玩動物飼養管理士
犬が脱毛症にかかると、紫外線や病原因といった外部刺激からのダメージを受けやすくなるだけでなく、体温維持がしにくくなり、体調を崩す原因にも繋がります。
ほとんどの犬種では換毛期があり、季節によって大量に被毛が抜けることがありますが、時期に関係なく脱毛する場合は、脱毛症の疑いがあります。犬は全身の被毛で体を守っているため、脱毛に気付いたら早めの対策が必要です。
犬の脱毛症と考えられる病気、原因や治療についてご紹介します。
脱毛症状がおこる病気
犬の脱毛症の原因は、ホルモン分泌異常や真菌・細菌によるもの、アレルギーや原因不明のものまでさまざまです。原因により治療法も異なりますので、まずは原因を突き止める必要があります。
○膿皮症
膿皮症は、犬の皮膚にいるブドウ球菌などの細菌が異常繁殖し、皮膚湿疹、脱毛、かさぶたなどの症状があらわれる皮膚病です。本来、犬の皮膚にはさまざまな細菌が存在していますが、免疫低下や外傷などで皮膚が傷つくことにより感染します。
過度なシャンプーや洗い流し不足、ブラッシングで皮膚を傷つけたり、反対に不潔なままケアをしないなど、適切なお手入れが出来ていないことでも膿皮症になることがあります。抗生物質、薬用シャンプーなどで皮膚を清潔な状態にする治療が必要となります。
他の病気やストレス、栄養不足などで免疫が低下していると皮膚のバリア機能が弱り、元々持っている菌に感染します。そのため、免疫力をアップさせることで治癒を早め、再発予防をすることが出来ます。
○皮膚糸状菌症
皮膚糸状菌症は、真菌症ともよばれ、皮膚にカビが生えることが原因で、円形の脱毛症状がおこる皮膚病です。脱毛の他、皮膚がかさぶたのように剥がれることもありますが痒みがなく、脱毛もない無症状のこともあり、この場合は発見が難しくなります。
真菌(カビ)が原因となるため、抗真菌薬の投与と週1回ほどの薬用シャンプーで治療します。また、湿度が高いと真菌は増殖し活発になりますので、室内の掃除や除菌も合わせて行います。
皮膚糸状菌は、犬だけでなく猫やウサギなどの小動物の他、わたしたち人間にも接触感染することがあります。感染を拡大させないためにも、完治させることが重要です。
○クッシング症候群
クッシング症候群は、ホルモン異常でおこる病気で、左右対称に表れる脱毛、多淫多尿、大食、腹部の膨らみ、皮膚が黒ずむなどの症状がみられます。
犬の体内では、脳の下垂体という部位からの指令で副腎皮質からコルチゾールというホルモンが分泌されます。このコルチゾールが過剰分泌されることで、クッシング症候群は発症します。
コルチゾールの過剰分泌の原因は、下垂体の腫瘍によるものが9割以上で、治療は病状により異なります。腫瘍が小さい場合、投薬でコルチゾールの分泌を抑えることが一般的で、腫瘍が大きい場合は放射線治療などを行う場合があります。
5歳以上のシニア犬に多くみられ、オスに比べメスの発症が多いと言われています。合併症として糖尿病や白内障を引き起こし命に関わることもあるため、早期発見が第一です。
○アレルギー性皮膚炎・アトピー性皮膚炎
ノミ、ダニ、ハウスダスト、花粉、食品などへのアレルギー反応でも脱毛症状がみられます。原因となるアレルゲンは、本来体内に入っても無害な物質ですが、体の免疫が過剰反応をおこすことでアレルギー症状が発症します。
皮膚症状としては痒み、脱毛、皮膚の赤みなどがみられます。症状を抑える投薬で様子をみながら、ノミ・ダニが原因であれば予防薬や薬用シャンプーなどを、ハウスダストや花粉であれば室内の清潔を保つこと、食品であれば対象食品を含むフードを替えるなどといったアプローチも必要です。
○アロペシアX
アロペシアXは原因不明の脱毛症、発症する半数はポメラニアン、去勢をしていない、1~5歳くらいの若い雄によくみられます。
体幹部における左右対称の脱毛、皮膚が黒くなる色素沈着の他、被毛も皮膚もパサパサと乾燥します。また、痒みがないことも特徴で、全身症状もありません。至って元気で、寿命に影響することも無いと考えられています。
原因不明のため、これといった特効薬がないのがアロペシアX。症状や状態に合わせて、ホルモン剤やステロイドなどが使われることもありますが、いずれにしても長期の投薬はしないことが多いです。
サプリメントや薬用シャンプーで、乾燥ケアや発毛を促すこともあります。
○染色被毛脱毛症
遺伝性の病気である染色被毛脱毛症は、その名の通りグレー・シルバー・ブルーなどの淡いカラーの被毛を持つ犬種に発生する脱毛症です。
生後4か月前後~3歳頃までに発症し、悪化すると体幹部が完全に脱毛するケースもみられます。痒み、痛み、発疹などの症状はなく、命に別状はありませんが、被毛が薄くなることで体温維持や細菌感染が難しくなることもあるため、早めに動物病院に相談しましょう。
遺伝性のため、予防法や治療法はありません。状態に合わせ、ホルモン剤の投与や発毛を促す薬で症状を緩和させる治療が一般的です。感染症の予防、薬用シャンプーの使用、体温維持にも注意を払う必要があります。
○ストレス性脱毛症
病気としての脱毛症状ではなく、ストレスや不安といった心因的な理由でも脱毛することもあり、ストレス性脱毛症と呼ばれます。
運動不足・生活環境の変化・長時間の留守番など、犬がストレスを抱え、身体の一部分を舐めたり噛んだりすると毛が擦れてちぎれてしまいます。何もしていないのに地肌が見えるほど毛が抜けてしまうことも。
ストレスの感じ方は性格により個体差があります。長期的にストレスを抱え続けての発症だけでなく、ペットホテルなど慣れない環境に1日預けられただけでも、大きなストレスを感じる子もいます。
思い当たる原因は早めに取り除き、精神的に安定することで症状は改善されていきます。愛犬の性格に合わせた対策をすることが大切です。
健康な皮膚、被毛を保つための栄養素
犬の被毛は、ケラチンというタンパク質の一種からつくられています。血液に乗って運ばれる栄養素で健康な被毛を保っているため、皮膚や被毛の状態は犬の健康状態をあらわすバロメーターでもあります。
脱毛症を緩和させるためにも、毎日のドッグフードの栄養バランスを今一度確認し、必要に応じて+αの食事を用意するといいですね。
健康な皮膚と被毛を保つため、手作り食やおやつを与える際には、必要な栄養素を取り入れましょう。
◆良質なタンパク質
肉や魚に多く含まれる動物性タンパク質。肉食動物の犬は、主に肉や魚をタンパク源として主食としていました。タンパク質は筋肉や血液、犬の身体を作る大切な栄養素です。
被毛の状態が悪いときは、良質なタンパク質を食事から与えること、手作り食を与える際は、肉や魚をメインとした動物性タンパク質をメインにすると良いでしょう。
◆オメガ脂肪酸
皮膚や被毛の健康維持に欠かすことができない栄養素に、オメガ3脂肪酸、オメガ6脂肪酸があります。これらは犬の体内で合成できないため、食事から摂取する必要があります。
被毛ケア用のフードには多く配合されていますが、オメガ3、オメガ6どちらも含まれていることが重要です。過剰摂取は病気の原因になることもあるため、フードからの摂取が難しい場合はサプリメントで補助的に栄養補給するといいでしょう。
◆ビタミン
被毛の状態を良くするために、ビタミンA、B、Eなどのビタミン群も大切な役割を持っています。タンパク質を体内に運んだり、吸収を助けるといったはたらきをするのがビタミン。
水溶性ビタミン(B)は過剰分は体外に排出されますが、脂溶性ビタミン(A、E)は過剰摂取すると体内に蓄積し、病気の原因になるため注意が必要です。
ビタミンAは卵黄やチーズ、ビタミンBは豚肉やレバー、ビタミンEにはお豆腐など、様々な食材からビタミンを取ることができます。手作り食を与える際にはビタミンも意識して与えると良いでしょう。
脱毛症状の改善を助けるためにできること
脱毛の症状がおこった場合、病気や原因に合った治療をすることが第一ですが、脱毛症状の改善を助けるサポートも必要です。治療と並行しながら、脱毛症状が悪化しないように飼い主さんが出来るサポートがあります。
①免疫力を高めるサプリメントを与える
免疫が落ちていると、あらゆる病気にかかりやすくなります。免疫が下がると、膿皮症、皮膚糸状菌症といった、自分が持っている菌や通常は感染しない菌に体が反応してしまうことも。
特にシニア期になると体力と共に免疫力も低下していくため、病気を防ぐためにもサプリメントを上手に活用したいですね。免疫力が上がると病気の進行を遅くしたり、犬の持つ自然治癒力を高める効果もあります。
サプリメントは医薬品ではありませんが、投薬など治療中の場合は、念のため獣医さんに相談すると安心です。
②皮膚の乾燥を改善させる薬用シャンプー
健康な毛は、健康な皮膚から生えてきます。土台を整えるため、シャンプーも乾燥を防ぐものや、健康な被毛が生えるよう栄養が入ったものを使用すると良いでしょう。
また、脱毛を起こしている皮膚はデリケートになっていることがあります。なるべく皮膚に優しい、安心なものを選びましょう。
③洋服を着せる
脱毛している部分に痒みが伴っている場合、犬が気にして舐めてしまうことがあります。同じ場所を舐め続けると毛が擦れて切れてしまうだけでなく、雑菌が繁殖することで皮膚炎になってしまうことも。
特に脱毛箇所から生える毛は、細く柔らかい毛のためちぎれやすいことがあります。洋服を着せて脱毛部分を刺激から守ることで、新しくしく生えてきた毛を犬がちぎることを防げます。
脱毛症状が全身に広がっている場合は、被毛による体温調節が難しくなり、紫外線や細菌感染の影響を受けやすくなります。二次感染を防ぐためにも、症状や気温に合わせ洋服を着せると良いでしょう。
犬の脱毛症のまとめ
早期発見のためにも、日々の観察とコミュニケーションを
一口に脱毛症と言っても、その原因はさまざまです。中には命に関わる病気が隠れていることもあります。病気の早期発見のためにも、愛犬の異常には早く気づいてあげたいですよね。
毎日全身をくまなく触り、長い毛であればブラッシングなども兼ねて、根本や皮膚の状態をチェックするようにしましょう。
また、痒みがある場合などは、犬はしきりにその場所を掻いたり舐めたり、気にする仕草がみられます。
犬は言葉で症状を伝えることが出来ません。毎日一緒に暮らしていると、些細な変化に気づきにくいものですが、一緒に暮らしているからこそ愛犬の行動をよく観察し、スキンシップを取りながら、日々愛犬との時間を重ねていきたいですね。
ナルセノゾミ先生
資格:動物看護士、愛玩動物飼養管理士
仙台総合ペット専門学校で、動物看護・アニマルセラピーについて学ぶ。
在学中は動物病院・ペットショップの他、動物園での実習も経験。
犬猫、小動物はもちろん、野生動物や昆虫まで、生粋の生き物オタク。
関わる動物たちを幸せにしたい、をモットーに活動しているWebライター。