竹内COCO先生
動物看護師、トリマー
目次
犬の膿皮症について
膿皮症という言葉を聞いたことがあるでしょうか。愛犬が体を痒がったり、皮膚が赤くなったりしている場合には膿皮症になっている可能性があります。
通常、健康な皮膚では多少の細菌を防御する力を持っています。ですが、なんらかの原因により皮膚バリアが低下し、細菌が異常繁殖することで炎症を起こし、化膿することがあります。
このような皮膚で起こる化膿性の細菌感染症を膿皮症と言います。膿皮症はその他の皮膚病と、目で見て見分けることができません。なぜならその症状はその他の皮膚病にも起こり得る症状ばかりだからです。
膿皮症の症状
主な症状として
- 痒がる
- 皮膚が赤く炎症する
- 脱毛
- 湿疹
- かさぶた
などが挙げられます。これらの症状は細菌の種類や、菌の感染の深さなどによって変わってきます。ただの皮膚病だと思っていると悪化した場合、食欲不振や沈うつ状態といった、全身性のものにまで発展してしまうこともあります。
膿皮症の種類
膿皮症は起こる場所や菌の種類によって4つのタイプに分けることができます。それぞれについて詳しくご紹介します。
表在性膿皮症
皮膚の一番表面である表皮の中でも、表面のみに起こる膿皮症。角質層や毛包にまで及ぶことはなく比較的軽度です。湿疹を起こしたり、ニキビのようなものができたりします。
浅在性膿皮症
表皮へ細菌が侵入することで起こる膿皮症。角質層を通り侵入したり、毛包から細菌が侵入することで起こります。膿が溜まった水ぶくれのようなものができたり、潰れてかさぶたのようになったりもします。
特に生後3~4ヶ月の子犬に多く見られる膿皮症で、最初は腹部や股の間など被毛の少ない場所に起こり次第に脇下や胸部にまで広がっていくことが多いものです。
深在性膿皮症
表皮だけでなく、真皮や皮下組織にまで細菌感染が及ぶ膿皮症。広範囲に広がり、細菌が奥深くまで入り込むため治りにくいやっかいなものになります。痒みもひどく愛犬が掻くことで出血し悪化してしまいます。
細菌がリンパ節に及ぶと、食欲不振や沈うつという元気がなくなり動かない状態になってしまうこともある怖いものです。
皺壁性膿皮症
皮膚どうしが擦れやすい、皮膚に深いひだのある犬種に起こりやすい膿皮症。口唇や短頭種の顔などのしわ部分は風通しが悪く、蒸れやすいので細菌が繁殖しやすくなります。そのほか、尻尾や、指の間などでも同様に起こる膿皮症です。
犬の膿皮症の原因
では、なぜこのような膿皮症を発症してしまうのでしょうか。膿皮症を起こす細菌は様々ですが主にブドウ球菌や、レンサ球菌などが挙げられます。
先程もお伝えしたように、健康な皮膚はこれらの細菌をはねつける力を持っています。通常であれば皮膚が防ぐことのできる細菌に負けてしまうということは、なんらかの原因があるということです。
免疫力、抵抗力の低下
免疫力や抵抗力が低下すると、通常なら勝てる菌にも負けてしまいます。まだ免疫機能が発達していない子犬や、抵抗力が低下してくる高齢犬などが膿皮症にかかってしまうことが多いようです。
栄養不足
栄養不足を起こしていると、膿皮症にかかってしまうこともあります。免疫力や体力をしっかりと保つためには十分な栄養が必要です。
外傷によるもの
外傷を起こしている場合、その部分が化膿し細菌感染を起こすことで膿皮症になってしまいます。散歩中にケガをしたり、犬同士のじゃれ合いで噛み傷がついたり、ときには間違ったブラッシング方法で皮膚を傷つけてしまっていることが原因となる場合もあります。
二次感染
膿皮症の原因で特に多いものがこの二次感染です。アレルギー性皮膚炎やアトピー性皮膚炎、アカラス症などその他の皮膚病を発症している場合には、二次的に膿皮症も引き起こすことが多いもの。またノミやダニなどが原因となることもあるのでしっかりと予防しましょう。
基礎疾患によるもの
治療を行っても繰り返し膿皮症を起こす場合には、上記の皮膚病の他に、基礎疾患が原因となっている場合もあります。甲状腺機能低下症やクッシング症候群といったホルモン状態を変えてしまう病気が原因となり膿皮症を起こすようです。
膿皮症になりやすい犬種
膿皮症はどのような犬種でもかかる可能性が十分にあります。また、免疫力や抵抗力が低いという点では子犬や老犬は少しリスクが上がりますが、短毛・長毛、年齢もあまり関係ありません。
ただ比較的皮膚病を起こしやすい犬種は存在し、二次的に膿皮症を起こすリスクが高いと言えるでしょう。
・皮膚病になりやすい犬種
柴犬
シーズー
ゴールデンレトリバー
パグ
・深在性膿皮症になりやすい犬種
ジャーマン・シェパード
・皺壁性膿皮症になりやすい犬種
コッカー・スパニエル
ペキニーズ
ブルドッグ
パグ
膿皮症の治療方法
膿皮症の治療はその種類や状態によって様々。基本的な膿皮症の治療方法は次の通りです。
飲み薬
感受性試験と言われる細菌に効果のある薬を選ぶための検査を行います。この感受性試験に基づいて、治療に有効な抗生剤を決定し、投与します。
塗り薬
局所的な治療法としては、抗菌剤を塗布します。クリームや軟膏を塗ることで菌を減らし、痒みを和らげる効果もあるものです。
薬浴
薬用シャンプーで洗うことも効果的です。薬浴といって、シャンプー剤をつけたあと10~15分付け置きすることで、薬剤を浸透させる方法で洗ってあげます。殺菌効果のあるクロルヘキシジンや過酸化ベンゾイルなどを含むシャンプーが使用されます。
ただし、元になってる皮膚病がある場合や、状態によって使用するシャンプーは変わりますので必ず獣医さんに処方されたものを使用しましょう。
そのほかの治療
二次感染で膿皮症を起こしている場合や、基礎疾患が原因となっている場合にはそれらの治療も行い、なるべく再発しないようにします。
膿皮症のときに気をつけたいこと
膿皮症の治療中に気を付けたいポイントがいくつかあります。膿皮症の治療は長くかかってしまうことも多いですが、なるべくスムーズに進めることができるよう、次の点に注意してあげましょう。
シャンプーの方法
膿皮症の治療にシャンプーは効果的です。ですが、皮膚の状態に適したシャンプー剤を使わなければ、皮膚の抵抗性を弱めてしまい悪化させてしまいかねません。
皮膚の状態に合わない強いシャンプー剤や、シャンプーのしすぎは逆に皮膚のバリア能力を低下させてしまうので注意が必要です。
必ず獣医さんに処方されたシャンプー剤を使用し、適切な回数だけ洗ってあげるようにしましょう。また、湿気が残っていては細菌の繁殖を促してしまいます。特に、しわや指の間など乾きにくい場所はしっかりと乾燥させてください。
毛を刈っておく
患部を清潔にしておくことも大切なポイントです。周辺の毛を刈っておくことで雑菌の繁殖を防ぎ、治療がしやすくなります。
治療は最後まで
膿皮症は治療に時間がかかることの多い皮膚病です。特に深在性の膿皮症では真皮や皮下組織まで細菌が入り込んでしまっています。そのため、一見治ったように見えても、菌がまだ残っていることがあります。
そのときに治療を止めてしまうと、せっかく治りかけていたものがまた再発してしまいます。独断で中止せず、必ず獣医さんのOKが出るまでは治療を続けましょう。
舐めたり掻いたりしないように
愛犬が舐めたり掻いたりしてしまうと、傷は治りにくく、治療は長引いてしまいます。どうしても舐めてしまう場合にはエリザベスカラーなどを使用しましょう。
少しかわいそうだと思うかもしれませんが、結局は早く膿皮症の痒みなどのストレスから解放してあげることに繋がるはずです。
膿皮症にならないために、予防や日ごろのケアの3つのポイント
種類や程度によっては治療に長期間を要する膿皮症。治ったとしても再発しやすい皮膚病でもあります。膿皮症の症状は、痒みや皮膚のただれ、化膿など愛犬にとっても飼い主さんにとってもストレスの多いもの。
そこで、日常ケアで予防するポイントをご紹介します。次の3つに気を付けて、なるべく膿皮症を発症しないようにしてあげてくださいね。
清潔な皮膚を保つ
膿皮症の予防にはまず、清潔な皮膚を保つことが大切です。日ごろから愛犬の寝床はこまめに掃除をしてあげるなどして雑菌が繁殖しないように気を付けます。
清潔な皮膚を保つためには、皮膚・被毛の手入れも心掛けてあげなければなりません。月に1~2回程度シャンプーをして清潔で健康な皮膚を保ちましょう。過度なシャンプーは逆に皮膚を弱らせてしまうので、シャンプーのしすぎには気を付けてくださいね。
また、愛犬とのコミュニケーションとして、ブラッシングは毎日してあげることが望ましいです。特に抜け毛の多い時期はしっかりと抜け毛を取り除いてあげてください。古い被毛が皮膚に溜まっていると通気性も悪くなってしまい、菌が繁殖しやすい状況を作ってしまいます。
ブラッシングのしすぎや力の入れすぎで皮膚を傷つけてしまわないように注意しながら丁寧に行ってあげてくださいね。その際、皮膚に異常がないかも確認し、万が一、異常を見つけた場合はなるべく早く動物病院を受診しましょう。早期発見・早期治療が菌の進行を防ぎます。
ノミダニ予防
お散歩に出かけるのであれば、ノミダニの予防は必ず行いましょう。ノミダニの寄生によって皮膚病を起こし、二次感染として膿皮症を起こしてしまうことがあります。
ノミダニの予防は、皮膚に垂らすだけのスポット剤やおいしく食べるジャーキータイプのものを月1回投与してあげるだけです。簡単に行えるものですので、「つい、うっかり」で愛犬が皮膚病にかかってしまうことのないように注意してあげてくださいね。
免疫力の低下を防ぐ
通常であれば勝てる細菌に負けてしまう一番の原因は免疫力・抵抗力の低下です。免疫力や抵抗力が低下すると、膿皮症だけではなく様々な病気にかかりやすくなってしまうので、一番気を付けてあげたいポイントです。
高齢になってくると、若い頃に比べると否応なしに免疫力は落ちてくるもの。なるべくその低下を防いであげることで膿皮症やその他の病気から愛犬を遠ざけてあげましょう。
免疫力の低下を防ぐには、食事の見直しも重要です。食事と健康は密接な関係があり、質の悪い食事はそのまま、体力や抵抗力の低下に繋がります。
EPAやDHAなどの不飽和脂肪酸は抗炎症作用があり、皮膚のバリア機能を高めますし、ビタミンA・E・Cなどは抗酸化作用があるのでエイジングケア効果があります。このような成分を含み、栄養バランスのしっかりとれた食事を与えてあげてください。
その他に、免疫力の低下を招く原因としてストレスや運動不足などが挙げられます。愛犬は飼い主さんも気づかないうちにストレスを抱えていることがあるのです。日々の生活の中で、些細な変化にも気に配ってあげてくださいね。
また、食事だけではどうしても全ての栄養素を取り入れることが難しい場合もあります。そんなときには動物病院でも補助としてサプリメントをおすすめしています。サプリメントは薬とは違いますので、品質の良いサプリメントであれば長期的に与えても全く問題はありません。
皮膚や被毛にはEPAやDHAなどの不飽和脂肪酸が含まれたもの、関節ケアにはグルコサミンやコンドロイチンが含まれている物が良いですよ。愛犬の体調や症状に合ったもので、安全なものを与えてあげてください。
免疫力そのものを内側から高めるには、βグルカンを含むキングアガリクスがおすすめです。βグルカンには免疫細胞を活発化させる効果があります。内側から免疫力自体をアップさせて、様々な菌に負けない強い体づくりを心掛けましょう。
執筆者:竹内CoCo先生
経歴:大阪コミュニケーションアート専門学校ペットビジネス科ペットトリマーコース(現在の大阪ECO動物海洋専門学校)卒業。
ペットショップ勤務を経て、現役動物看護士。動物病院で勤務している立場から、「正しい知識を持ってペットと幸せに暮らしてもらいたい」という気持ちで正確な情報をお届けします。